粉末

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奴のすらりと尖った歯で噛み砕かれた角砂糖が
ざりざりと俺の舌を甘く痺れさせる。
俺の口内でどろりと熱く溶けたそれは喉を通り腹の底に落ちて重く留まった。
粘膜が焼け爛れて声が出ない。
魚のようにはくはくと口を動かすことしか出来ない俺を意地の悪い目が捉えていて気分が悪い。
「安心しろ。誰にも言わねえよ。」
俺は何も言っていない。でかい独り言だな。
「これは秘密だ。二人だけのな。」
勝手に決めるな。俺は何も
「どうだ。悪かねえだろ。」
俺は何も言えない。
だから一度だけ首を縦に振った。
奴が意地の悪い目を細め、骨張った指で俺の髪を
わしゃわしゃと乱す。
腹の底の熱を思い出した体が
燻った二酸化炭素を吐き出した。
その代わりに吸い込んだ酸素に混じっていた紫煙。
少し咽せた俺を見て奴は少し優しく笑った。

まあ、この関係は、この秘密は

「…悪くはない。」



二人だけの秘密

5/4/2024, 9:05:58 AM