はた織

Open App

 中学生の頃に、同級生がアジサイの下には、よく死体が埋まっているとか、花の香りは死肉と同じとか言っていたような気がする。ともかく、雨露に濡れたアジサイは死臭がすると決めつけて花を泣かしていた。
 その言葉の影響が私の中では、どうも強い印象を受けたらしい。また当時は、豚の眼球から水晶体を取る理科の実験をした。担当の先生曰く、豚の内臓や肉は、人間のものに近いらしい。水晶体の摘出に成功した生徒はいなかったが、体験と知識を埋め込まれた。
 おそらく、どちらも梅雨の時期に起こった出来事だったから、私の中では、アジサイと豚肉が寄り添っている絵面が、自然と浮かび上がってくるのだ。
 正直に言って、違和感がない。くすんだ青いアジサイが雨粒を滴らせている傍で、淡い桃色の豚バラ肉は、アジサイの葉に何枚もぶら下がって、死してもなお美味なる脂を照らしている。
 未だに、本当のアジサイの匂いを嗅いだことがない。かと言って、死体の臭いも知らない。葬式後には髪の焼けた臭いが付くらしいから、それがいわゆる死臭なのだろう。
 ただ結局は、豚肉を焼けばすぐ分かるのではないかと、アジサイの脳味噌のような花束と豚肉をごっそりと地面に落として思考を止めた。
             (250619 雨の香り、涙の跡)

6/19/2025, 11:48:30 AM