(ひとりきり)(二次創作)
夢に見た牧場生活を遂に始めた。
新米牧場主ナナミはもう、幸せの絶頂にいた。心配性の父により、あくまでも実験的な許可とはいえ、叔父フランクはウェスタウンの南に立派な牧場を準備してくれた。というより、ずっと放棄されていた地らしく、この時ばかりは前の所有者にキスをしたいぐらい嬉しかった。小さいながらも設備の整った家、荒れてはいるが栄養豊かで鍬を入れればすぐにふかふかになる耕作地。作物の種を植えて、いずれ牛や鶏を飼って、と夢は否が応にも膨らんでいく。
それに気付いたのは、その日の夜だった。
「私、独りぼっちだ……」
引っ越してきて、フランクやウェスタウンの人々に挨拶も済ませて、心地よい疲労感とともにベッドに入った瞬間、気付いた。昨日まで、両親と妹との4人暮らしだったのに、今やこの地にひとりきり。言いようのない寂しさが、じわりじわりとこみ上げる。
「……だからね」
とナナミは微笑んだ。
「恋人が欲しかったの。もっと言えば、家族が欲しかったの」
あれから一年。牧場は賑やかになった。牛も鶏も、馬も羊もいる。最近は猫を飼い始めたぐらいだ。でも、ナナミは誰かと一緒にいたかったし、大切な人と一緒に暮らすことを欲した。
「それで、私というわけか」
ナナミの昔語りに耳を傾けていたフォードが、ふう、と息を吐く。
「別段、私でなくとも、相応しい男は他にいただろう。ウェインや、ユヅキ、ヒナタ、あとはルデゥスだったか。家族が欲しいだけなら、彼らの方が……」
「家族が欲しいだけなら、ね」
「?」
「最初はそうだったんだけど、私、フォードが欲しくなったんだよね」
本当に、ただ人恋しいだけなら、フォードを選ぶ必要は無かった。三つの里の人たちは皆ナナミに親切だったし、ナナミを好いていた。そんな中、恋に疎いと公言しているフォードを選ぶ筋は無いはずだった。
「しょうがないよね。私結局、フォードを好きになっちゃったんだもん」
だから指輪を渡しに来た。拒まれたらどうしようという大きな不安を忍ばせながら。
9/12/2025, 8:19:49 AM