ただの野球人

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うその話です。明日また出します。
真夜中の訪問者

私がまだ大学生だった頃の話です。夏休みで実家に帰省し、夜はいつも通りバイトから帰ってきました。その日は日付も変わり、深夜2時を過ぎた頃だったと思います。

バイトで疲れていた私は、シャワーを浴びてすぐにベッドに入りました。部屋の電気を消して、スマホをいじっていると、ふと、家の外から**「コンコンコン」**とドアをノックする音が聞こえてきました。

こんな真夜中に誰だろう? 配達員? いや、こんな時間に宅配なんてないし、友達なら事前に連絡してくるはず。家族はみんな寝ている時間です。

心臓がドキドキし始めました。ノックの音は、まるで誰かが指の関節で優しく、しかし確実に叩いているような、そんな静かで不気味な音でした。

私は恐る恐るスマホの画面を消し、息を殺して耳を澄ましました。

「コンコンコン…」

再び、同じリズムでノックの音が聞こえてきます。今度は少しだけ、音が大きくなったように感じました。まるで、私が中にいることを知っていて、返事を待っているかのように。

私は身動きが取れませんでした。もしインターホンが鳴れば、まだ対処のしようがある。でも、直接ドアをノックしているというのは、何か異常な雰囲気がしました。

ノックの音は数回続いた後、ピタッと止まりました。静寂が部屋を支配し、私は自分の心臓の音だけが聞こえるような気がしました。

しばらくして、私は意を決して、ゆっくりとベッドから降り、窓のカーテンの隙間から外を覗いてみました。しかし、庭には誰もいません。街灯の光が届く範囲にも、人影は見えませんでした。

ホッとしたのも束の間、今度は**「コツ、コツ、コツ…」**と、庭の砂利道を誰かが歩くような音が聞こえてきました。音はゆっくりと、そして着実に、私の部屋の窓の下へ近づいてきます。

私は慌ててカーテンから離れ、壁に背中を押し付けました。窓の外から、何かが私の部屋を覗き込んでいるような、冷たい視線を感じました。

その時、また聞こえたのです。今度は、もっと近くで。

「コン…コン…」

それは、私の部屋の窓ガラスを、指の腹でゆっくりと叩くような音でした。

私はもう、息をするのも忘れ、ただ震えることしかできませんでした。その夜、私は一睡もできませんでした。そして、朝が来るまで、ずっと窓から目が離せませんでした。

結局、誰が窓を叩いたのか、それは何だったのか、今でも分かりません。ただ、あの夜の静かで、しかし確かなノックの音と、窓の向こうから感じた冷たい視線は、今でも私の記憶に深く残っています。

7/8/2025, 2:55:03 AM