さぶろー

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「それでいいじゃなくって、それがいいって言って」

幼なじみのあの子は、そうやっていつも私の言葉を指摘した。私が面倒くさがると、口を尖らせて怒った素振りをみせた。そんなところも可愛くて、私が思わず笑うとあの子も忽ち笑顔になった。あの子の周りには常に人がいた。羨ましいと何度も思った。

中学1年生の頃に2人で入った陸上部。
短距離のあの子と長距離の私は、種目こそ違えど幼なじみというのもあって仲良くしていた。

同じ人を好きになったのは、2年生の春ごろだった。

帰り道の公園でお互いの好きな人の話になった時、
あの子は顔を真っ赤にして好きな人の話をしてくれた。長距離の先輩だった。
「先輩でいいの?」
「違うよ、先輩がいいの」
熱った肌を誤魔化すように はにかむ姿に何も言えずに、私は咄嗟に嘘をついた。
「私はまだわかんないや」
「ずるい!先に言わせといて〜!」
「あはは」

応援するねと交差点で分かれた後、私は重い気持ちを引きずったまま歩いた。先輩のことも好きだけど、それ以上にあの子のことも大切だった。

あの子の笑顔が曇らないならこれで良かったんだ。
…これが良かったんだ、と自分に言い聞かせた。

4/4/2024, 1:35:03 PM