池上さゆり

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 奇跡は何度も起こらない。それでもつい、祈ってしまう。奇跡をもう一度だけと。

 恋人が自殺未遂をしたのは今回で二回目だ。一回目はOD。夜中に起きて、水を飲もうとキッチンに行ったところ、彼女がぐったりとして倒れていた。嘔吐した形跡もあって、顔も真っ白だった。幸い、すぐに救急車を呼び、胃洗浄と薬の投与、しばらくの入院で無事退院してきた。
 二度と同じことをしないと誓ったその一年後、約束を破られた。今度は近くの高層マンションに忍び込んで、屋上から飛び降りた。落ちた場所には植木があり、土の上だったこともあり即死とはならなかった。
 だが、首や背骨、足の骨折や内臓破裂もあり重症だった。すぐに手術が行われたが、意識は戻らないままだった。
 家の中で遺書も見つかった。内容は毎日死ななければならないという強迫みたいなものがずっと脳内にあって、なにをしていても生きていることそのものが大罪であるかのような気がして生きているのがつらいと。だから、解放させてくださいと。
 ショックだった。生きて欲しいと言った自分の言葉が余計に彼女を苦しめていたのかもしれないと思った。だが、命を粗末にする彼女が許せないもの本音で、どうするのが正解だったのかはわからない。
 だが、もし彼女が意識を取り戻したのなら。その時は嘘をつこうと思う。
 いつ死んでもいいから、次死ぬときは見届けさせてくれと。
 そう言うことで、好きな人の前では死ねないという気持ちが芽生えれば良いと考えた。そして、これからは死ぬことを考える暇もないくらいに毎月、毎週、毎日、なにか約束をしよう。予定を入れよう。
 あなたのために、あなたのことを想って動いてくれる人間がたくさんいることを伝えていこうと思う。

 だから、最後の奇跡をもう一度だけお願いします。

10/3/2023, 8:00:19 AM