すせそ

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【Kiss】

刑事という仕事、または私情で動いている目的のせいなのか、疲れて重すぎる肩からなんとかコートやスーツを脱ぐ。部屋着になると、冷蔵庫からビールを出してローテーブルの近くに座った。最近ついたクセでタブレット機器に入るアプリに手が伸びた。
それはよくある動画サイトで、昨夜に途中まで観た、ある企業の新商品紹介動画がハイテンションで続きを再生し始めた。俺とは正反対の元気さである。
「次はテート食品さんの新商品!TORORIなキッス♡で〜す!思わずキスしたくなるチョコ、なんて宣伝文句に照れちゃいますね〜」
そうだった。この話題はもう関係ないと思って、途中で視聴するのをやめていたんだった。気づいた途端に動画の音声が耳に届かなくなり、ぼんやりとした目をタブレットに向けるだけになった。Kissがタイトルの歌が好きだったあいつのことをまた思い出し、歌詞はなんだっけと考えながらビール缶を掴もうとした。

「そんな恥ずかしい商品にしたくなかったのになあ。君はどう思う?」

缶ビールが大きな音を立てて倒れる。きめ細やかな泡と黄金色がローテーブルにシュワシュワと流れていく。俺の隣には、懐かしい彼女がフワフワと浮いていた。
「あれ?もしかして今気づいた?ごめん。少し前から肩に憑いてたんだけど、君が全く私が死んだ理由に気づかないからさあ。コレだよコレ。頑張って開発してKissって名前で売り出したかったんだよ。後ろから突き飛ばすなんて、酷いよね」
少し透けた彼女の唇からは、衝撃的な言葉の連続だった。

2/4/2024, 1:56:40 PM