夢を見た。私は太平洋のど真ん中で一人泳いでいる。最初は足のつく程の浅い海だったが時間がたつにつれ深く、深くなっていく。海は気持ちが悪いほどに透き通り、海の底に泳いでいる私の影がゆらゆらと揺れているのが見える。その影に隠れて三葉虫が蠢いていて、まとっている甲羅をギラギラと輝かせていた。だがそれは宝石のようにきれいなきらめきではなく、泥水の中でゆらめくビンビールのような異様な輝きだった。ふと足が動かなくなった。さすがに「ヤバい」と思い必死に暴れようとしたが、思いも空しく海の底へ沈んでいってしまった。海の底は暗かったが、相変わらず三葉虫のギラギラした背中は光の柱をつくっていた。私は海底の圧力に負けそうになり地面を這いつくばって進んでいた。どのぐらい経ったのだろう。私は疲れはて食べ物か何か無いかポケットをまさぐってみると、吸うはずの無いタバコとアメリカの国旗が出てきた。取り敢えず私はそれをしまい三葉虫の背中にのってやすむとにした。ギラギラと品の無い光を放つ背中は苔むしていて、硬くツルツルした表面はあまり気持ちのいいものではなかった。私は上に座って先程のタバコをもう一度出し、何を思ったのか三葉虫の日を浴びているところに先の方を向けた。するとジリジリと音を立て火が着いた。海の中にも関わらず着いたのだ。そういえばさっきから長い間沈んでいるが、多少の息苦しさしか感じていない。私はさすがに恐ろしく思えてこの場所から逃げようと試みた。立ち上がって水面に向かって飛び上がるが、あと少しにも及ばず、手を伸ばすことしか出来なかった。足下を見ると瑠璃色の地面にどんどん足がくいこんでいっている。その時に冷たい風が海に吹き混んできて私を凍えさせようとしてきた。その瞬間視界が風と共に流れていき、三葉虫も粉のようになり、暗闇に消えていった。そしてぼうっと目の前の海が消えて、視界が薄くチョウチンアンコウのような明かりの着いた天井に変わった。私は起き上がり、見てみると布団がめくれ足にまとわりつき、床に転げ落ち誇りにまみれたラヂオの裏のツルツルした部分を触っていた。そしてつけっぱなしだったデスクスタンドを顔に浴び、顔に枕を押し付け寝ている。「あぁ、そういうことね」と私は呟き、ベッドに戻って朝までの短い眠りを堪能した。そして私がこれを書いていて2つほど奇妙におもった事がある。というのは夢というものは簡単に忘れるものなはずなのに、自然と私の潜在意識の中に潜り込んでいる事。もう1つは他の事は一致する点が現実で会ったのに、「タバコ」と「アメリカの国旗」に関しては全くもって身に覚えがないということだ。多分私は無意識にどこかでそれを見ていて、感じ取っていたのだろう。それを踏まえて、起きているときよりも、眠っているときの方が感が働くのではないかと私は考えた。それからというもの私は「人間以外でも夢を見るのか?」「人間は生涯でどれ程の夢を見るのか」というように夢について考えるようになった。だが、こ れ以上追求すると眠れなくなってしまう危険もあるし、哲学的になってしまうので、取り敢えずは「睡眠」を心から楽しむことにした。
「Good Night」
1/20/2024, 3:48:51 PM