あると

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『踊りませんか?』

「それじゃあ、今日のところはこれで頼むよ」

 王宮内のとある一室。
 王族派の領主貴族から麻袋を受け取った。
 中身は、麻袋にはとても似合わない、銀貨が数枚。

「ええ。ありがとうございます」

 僕はそう言って、宮廷道化師らしく、にやりと笑った。
 この生活は3年前から続いている。
 王族派と貴族派に分裂した貴族社会で、ほどよく情報を流して、いい感じにバランスを取る。

 王宮に出入りし、王家とも関係を持つ、宮廷道化師だからこそできること。
 
 王も知っている。

 今の政治情勢の肝は、僕が握っているのだと。
 王が不利にならないように調整する代わりに、それを見逃してもらっている。
 情報を統制して、人を動かしてバランスを取るのって、とっても楽しいんだ。
 みんな、僕の思う通りに踊ってくれるんだ。

 ……あぁ、そういえばそこの柱の裏でずっといる貴女。
 どこかのご令嬢かな?
 もしよろしければ貴女も、僕の手の平で

 ……踊りませんか?

10/4/2024, 10:29:14 AM