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「ね、ね、行こう?」

そういう彼女の額には、うっすらと汗が滲んでいた。すかさず、私も

「うん、うん、」

と言った。最低限の荷物を鞄に詰めて、彼女の手をしっかりと握る。彼女も、私の手を握り返してくるので、私は更に強く握った。私の真横で、くすくすと笑う気配が手のひらから伝わる。

「じゃあ、行こう」

彼女が囁くように言った言葉は、ふたりだけの逃避行の、開始の合図だった。

6/7/2025, 7:56:08 AM