たくみ

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 蛇口のレバーを回すと“しゃー”という音とともに水が流れ出てきた。すかさず、右手で持ったやかんで水流を受け止める。
 次第に重くなる腕。ちょうど良い重さになったところで水を止め、やかんを火にかける。

 火にあてられたことで表面の水気が乾き、徐々に熱くなるやかんをそのまま、ほかの準備を進める。
 ガラス製の透明なティーポットに白い陶器のティーカップ、それと紅茶の茶葉。ティーカップをソーサーに受けると、やかんの水が沸騰するのを待つ。

 しばらくすると、やかんの中から“ぼこぼこ”と水が蒸発する音が聞こえてきた。
 火を止めるとやかんを手に持ち、ティーポットにできたての熱湯を注いでいく。そして蓋を閉めると、行き場のなくなった蒸気がティーポット内で溢れかえり、透明なティーポットの内側が見えなくなってしまった。

 数分後。温まったティーポットからお湯を捨て、そこにスプーンで茶葉を一杯、二杯と入れていく。
 そうして準備が整ったティーポットに、まだ十分熱いお湯を一気に注ぐ。すると、ティーポットの底に縮こまっていた茶葉たちが“ぶわっ”と広がり、水中で動き回る。
 
 蒸らすためにティーポットの蓋を閉める。茶葉が動きを止めてゆっくりと落ちてきた。
 そのまま数分、自分の感覚を頼りに蒸し続ける。

 広がりながら、動きながら。ただのお湯に色をつけ、味をつけ、香りをつける茶葉。
 ティーポットの蓋を開ける。閉じ込められていた香りが一気に広がった。


『紅茶の香り』

10/27/2024, 2:05:21 PM