泡になりたい
事件現場には人の形をした泡の塊が一つ、そして半狂乱になっている恋人らしき男性。
この海の見える展望台で、大勢の人の目の前で、一人の女性が泡になって消えた。
私も目撃者として警察に事情を聞かれた。
……いいえ、特に変わった感じはしませんでした。
途中で男の人が離れて飲み物を持って帰ってくる間も、その人はずっと海を見ていました。
それから急に足下から溶け出して……。
その証言に嘘はない。
ただ泡になる直前、風に乗って彼女の呟きが聞こえたことは、なぜか言えなかった。
「もういいかな」
ごく普通に淡々とした調子で彼女はそう言ったのだ。
その時実は私も、同じことを考えていた。
投げやりでも何でもなく、ただふと酷く疲れた気がして、もうこの辺で十分かな……と思った。
それくらい美しい海だった。
8/6/2025, 5:17:26 AM