Mana

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『花畑』


涼宮葉乃 Suzumiya Hano
霧島空雅 Kirishima Kuga








世界一大好きな人と結婚する。


それって、本当に夢みたいで、本当に素敵なこと。


いつか、、、私にもそんな王子様が現れるって、信じてる!!



ゴンッ

「いたっ!」


「あーごめんごめん、まーた変な夢物語語ってる馬鹿がいるから」


思わず手が動いたわ、なんてふざけたことを言いながら、私の頭に下ろした拳をどかす憎たらしい奴。


「空雅には別に理解してもらわなくていいもん」


「理解したくてもできねーよ」


この空雅っていう奴とは、なぜか中学3年間同じクラスで、なぜか同じ高校に合格して、なぜかまた高一のクラスが一緒っていう、、。


いわゆる神様のいたずら、意地悪。


ただなんとなく、唯一同じ高校に進学した同中メンバーで気軽に話す仲だから、今もたまに話すっていう、、、それだけ。


「だいたい結婚なんかに夢見てる奴って、結婚できずに終わるか失敗して離婚だろ」


でなかったらこんな失礼な奴、、、関わらないよね。


「あーもううるさい!いいもん!絶対素敵な運命の人見つけて幸せになって空雅見返してやるから!」






これが私たちの日常。





「はぁ......あいつまじ馬鹿」



こうやってほぼ毎回呟かれてることは、私は知らない。




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「葉乃って、なんでそんなに結婚したいの?」


「今って、結婚願望ある人減ってるじゃん?」



お昼の時間。仲良くなったいつめんの結衣ちゃんと莉央ちゃんに問いかけられた。


「んー、なんでって、、、」


結婚っていうものに憧れたのは、私の母の妹の結婚式が始まりだった。


ガーデンウェディングで、純白のドレスに包まれ、幸せそうな顔で微笑むのを見て、私もこんなふうになりたいって思った。


それから、街でいろんなカップルやご夫婦、子供連れの方々を見る度に、憧れの気持ちが膨らんでいったんだ。


世界で一番愛し愛される存在がいたら、どんなに幸せなんだろうって、、。


「お前ってほんと夢見てるよな」


聞きなれた皮肉が聞こえた。


「結婚なんて縛られるだけじゃん?だからみんな結婚願望なくなってくんだし。だいいち、人間の気持ちなんて変わりやすいもん本気で信じられるのとかまじで馬鹿だなおまえ」


今まで、沢山言われてきた。


そんな夢くだらない。現実で起こるわけない。それ本気?


どれも私の心を抉ってきたけど、耐えられた。


だって、どんなに非難されても、私はそれが憧れだし、夢だから。


そうやって胸張ってきたけど、、、、


「別に、空雅がどう思おうが関係ないし。」


なんか、刺さった。刺さって抜けない。鋭い棘が、痛い。

じんじんと痺れさせるような痛みが、心を傷つける。


お昼ご飯食べ終わってなかったけど、、

なんかしんどくて、片付けもせずに教室を出た。


結衣ちゃんの引き止める声が聞こえたけど、無視しちゃった。


だってさ、、なんだろ、なんかわかんないけど、空雅のあの言葉がグサって来たんだ。


たぶん、自分でもわかってることだったから。




人の気持ちは永遠じゃない____


周りにいたカップルがどんどん別れていくのを見た時。

ついこの前まで付き合ってた人が、すぐに新しい恋人を作った時。


疑ってしまった。人の気持ちっていうものを。


本当の気持ちって、どれなんだろうって。


もし自分を好きと言ってくれてる人が現れたとして、、その気持ちは真実なのかな?って、、



そこを突いてきた空雅の言葉は、私の心に深く刺さった。


きっと、、頭の片隅では理解してる事だったから。


それでも心で拒否して、夢に縋ってきた私。


夢は夢でしかない、って突きつけられたようで、。



「苦しい、」



この気持ちは、誰にもわかってもらえない。




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それから、どことなく空雅を避けるようになった。


またあの言葉を言われたら今度こそ、自分の夢が終わってしまう気がした。




結衣ちゃんと莉央ちゃんは気を使ってか、空雅がいる教室だったりでは、あの話は持ち出さないようにしてくれた。


それでも2人は、葉乃の夢聞くの好きだよって笑ってくれたから、私も素で話せた。




そんな日々が半年続いたある日、、



学校祭の最終日だった。





みんなが祭りの余韻を感じながら片付けを始めた頃に、クラスメイトの男子から呼び出された。


そのままついていったら、、、


「入学式で一目惚れしました!それから、同じクラスで過ごしていくにつれ、どんどん好きになりました、、。俺でよかったら付き合ってください!」


まさかまさかだった。告白なんてされたこともなかった。


予想外すぎて、テンパった。


とりあえずなにか言わなきゃ、、って思うのに、脳は上手く機能しなくて。



なんとか絞り出せたのは、少し時間ください、。っていう我ながら失礼な言葉。



姿が見えなくなって、ようやく息ができた。



「ど、どうしよ、、」


「断るだろ」


居るはずのない人の声がして振り向けば、超不機嫌を丸出しにした顔でこっちを見る空雅がいた。


「……なんで、ここに」


「んなことより、」


断るよな?って、光のない目で私を見下ろす。


「な、なんで、、空雅にそんなの決められなきゃいけないの」


「んじゃあ好きでもないのに付き合うのか?」


「好きかどうかなんて、空雅にはわかんないじゃん!!」


「んなことくらいわかるわ!」



どんだけお前のこと見てきたと思ってんだよ、、と、さっきまでの威勢を失ったように細い声で呟く空雅が、空雅らしくなくてこっちの調子が狂いそうになる。


「空雅が見てきた私って何?ただ、私の夢否定してきただけのくせに!」


「それはお前がっ、、!」


「私が何!?哀れだった?可哀想な奴だなって思った?現実で彼氏の1人もできたことないくせに結婚なんか語って馬鹿だなって?言ってたよね沢山!数え切れないくらい!今更なに躊躇してんの?言えばいいじゃん!思ってること全部!」


「っ!おい、葉乃落ち着けって」


「落ち着いてる!これまで空雅に言われたこと、ちゃんとわかってる!人の気持ちなんて変わるって言いたいんでしょ?今付き合っても結婚なんてできないって、、、」



なんで、、、なんだろ、


急に止まらなくなった。きっと、怒りかな。空雅への。


だってさ、ずっと否定してくるんだもん、私の気持ち。


今まで耐えてきたんだもん、、




「空雅がどう思おうが関係ないから」


私が誰と付き合おうが、弄ばれようが、裏切られようが、、、
空雅には一切関係ないこと。


だって私たちはただのクラスメイト。


それ以上でもそれ以下でもない。




私を見て呆然と立ち尽くしている空雅を睨みつけてから、背を向けて歩き出す。


もう空雅に干渉されるのは御免だっていう意志を込めて。



なのに、、



「……っ!? 空雅はなして!」


「いやだ、離したくない」


「後ろから抱きついてくるとかほんとに信じらんない!」



抵抗しても、男の力には敵わない。

何一つ状況を打開できないまま、ただただ抵抗する時間。



「葉乃が好き」



耳元で、あと少しで聞こえなくなりそうだった声を拾い、思考が停止する。



「え、、いま、」


「葉乃が好きって言った」



今度はしっかりと、、

いつもの空雅のよく通る声で。



「いや、意味わかんない」


「ずっと、、中学の頃から好き。 気づいたら好きだった」


聞いてもない情報が、どんどん耳から流れ込む。


「葉乃が、他の奴と楽しそうに話すのに嫉妬した、、葉乃の夢を聞くのがしんどかった。いつか、、俺以外の誰かの隣で、夢を叶えるんじゃないかって思ったら、、気が狂いそうだった、。」



「あんな酷いことばっか言ってごめん、、全部嘘だから、」なんて、らしくないことばっか言う空雅に戸惑いが隠せない。


あの空雅が、、私を好き、?有り得ないよね、?


「これから、今まで最低なこと言ってきた分頑張るから、、俺のことも少しは考えて」



隣の花壇で花が揺れる。まるで、おとぎ話に誘うように。


ゆらゆら揺れる花々が、夢の続きを紡いでくれる気がした。






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「新郎 霧島空雅さん。

あなたは新婦 葉乃さんを妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命ある限り心を尽くすことを誓いますか?」



「はい、誓います」



「新婦 霧島葉乃さん。

あなたは新郎 空雅さんを夫とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命ある限り心を尽くすことを誓いますか?」



「はい、誓います」






「では誓いのキスを」















これまでの私へ




やっと、夢が叶ったよ。



世界で一番だいすきな人と結婚するよ。



中学の私にこのことを伝えたらきっと驚くよね?



この人が、私の運命の人だよって___






「なにわらってんの」


「んー空雅と結婚するなんて予想もしなかった頃の私に話しかけた」



「なんだそれ」



「だって、あの空雅だもん」



「俺以外がここに立つの許さないからな」




あの頃と同じ、意地悪そうな自信ありげな顔をした空雅が近づいてくる。



目を閉じてそれを受け入れれば、少し緊張気味な感覚。



そして、割れんばかりの拍手が私たちを包み込んだ。






「愛してる」


「一生?」


「もちろん。葉乃の夢を叶えるのが俺の幸せだから」






足元の草が揺れた。


周りに咲く花々も揺れた。



暖かな風に身を委ね、甘い香りをふりまくそれに、



私たちは新たな未来を誓った。

9/17/2023, 6:25:33 PM