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誰もいない学校が好きだ。
いや、正確に言うと教師はいるのだが。それはともかくあの静まり返った雰囲気が好きなのだ。
電気が消えた空っぽの教室を眺めると、世界で僕しかいないような気になれる。

靴の音だけが響く体育館
雫がポタポタと落ちている水道
薬品のにおいが充満する理科室
青空がどこまでも広がる屋上

どこもまるで、日中とは別ものみたいに思えて、僕はいつも新鮮な気分で学校を歩き回ったものだ。


ただ、今日ばかりはわけが違っていた。
僕が一番好きな場所である屋上に、先客がいたのだ。
長い黒髪をたなびかせ、彼女は僕に言った。
「私、あなたのことがずっと気になってたの」
それが、後にとんでもない事件を起こすことになる辻本明美との、ファーストコンタクトだった。

10/12/2024, 1:47:25 PM