朝倉 ねり

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『落ち葉の道』

「お兄さん、そこのお兄さん!」
いつものように道を歩いていると、後ろから話しかけられた。
振り返ると、小さな少女がこちらに向かって手を振っていた。
「……なんだ、ポプラの精霊か。」
「ポプラじゃないですよぅ、あんな植物と一緒にしないでください。アタシは涼風の精霊ですぅ。」
「風の精霊?それにしちゃあ、ずんぐりむっくりだな。」
「レディーに向かって失礼な!」
「……それで?なんで俺に声をかけたんだ?」
そう尋ねると、ずんぐり……涼風の精霊は途端に申し訳なさそうな顔をして言った。
「お兄さん、落ち葉を集めてきてくれない?」

「ほら、これでいいか?」
俺は特に急ぐ用事もなかったし、何より精霊に嫌われたら何をされるか分かったものではないから、お望みのとおりに落ち葉を集めてきてやった。
「わーい!そうそう、これですよ!」
「ただの落ち葉にそんなに喜べるんだな……で、何をするんだ?焼き芋か?」
「ブッブー、違いますぅ。アタシ、最近木枯らしの精霊に乗っ取られかけてるんですよねー」
「は?」
意味がわからない。精霊が乗っ取られる?
「ほら、アタシたちって現象が形を持ったものじゃないですかぁ。最近秋が短くて、秋の精霊たちが夏とか冬固有の精霊に乗っ取られてるんですよー。」
涼風の精霊曰く、現象そのものが風化してしまったり、気候変動で消えてしまうと精霊も一緒に消滅してしまうのだそうだ。
「君も消滅の危機にあるということか?」
「そーゆーことです。でも、タダで乗っ取られたくないので、落ち葉をうんと遠くまで飛ばして、マウントを取ってやるんです!」
なんだか、不思議な感覚だ。精霊に特有のものだろうか?
「だから俺に落ち葉を用意させたんだな。」
「そうです!じゃあ今からやりますから、お兄さんは見ててくださいっ!!」
途端に真剣な表情になった少女を、俺は知らずのうちに息を止めて見守る。

『北の客人、鈴なりのツリガネ。お前は冷たい顔を当て、我らに息を吹きかける』


ビュウビュウ、と風の音が聞こえる。
気づけば俺が集めた分以外にも、周りに落ちていた落ち葉が風に飛ばされていく。
「どうだ、見たか木枯らし!アタシの力を見て怯えたなら、もっとアタシの出番を増やしなさいよね!」

風が吹き続けている。
風に乗って落ち葉が道を作る。
その上を、(体重が心配になるが)あの涼風の精霊が歩いていた。

ああ、今年の秋はまだ終わっていない。

11/25/2025, 11:39:55 AM