箱庭メリィ

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大きな入道雲に真っ青な空。
夏休み。父方の祖父母の家へ帰省していたぼくは、昼食後に縁側付近の和室で大の字になって休んでいた。
両親は出掛けていて、二つ上の高校生の兄は二階の客室にいた。

「ふー」

すぐにこなれてしまう素麺が昼食だったとはいえ、三束は少し食べすぎたかもしれない。

「成長期の男の子はよく食べるねえ」なんて祖母はにこやかに言っていた。
「スイカがあるからな」と、ぶっきらぼうに祖父も続けていたが、おやつの時間に食べきれるか分からないほど、今のぼくは満腹だった。

ごろごろと何をするでもなく和室を転がってみる。いぐさの香りが心地よい。
山々に囲まれた祖父母の家は、都会のぼくの家より少し涼しく感じるのは、気のせいだろうか。昼時を少し過ぎたこの時間が暑くないわけではないのだが、クーラーがなくてもじんわり汗ばむくらいで、縁側の大きな窓を開けていれば十分風が入ってきた。

チリン、チリン。
空が口笛を吹いたかのような軽やかな音が耳をくすぐった。
閉じていた目を開けると、ガラス製のクラゲみたいな頭に鉄の棒を一本下げた風鈴が目に入った。
祖母のコレクションのひとつだった。玄関口には、なんとか鉄器という、ガラス製より音の高い鈴虫の声のような風鈴がある。

チリン、チリリン。
一度風が吹き始めると、後を追うように何度か風が吹き抜けた。
チリーン、リリン、リリーン。
大きな風が吹くと、玄関口のなんとか鉄器も音を鳴らす。
その後も、風が吹く度に涼やかな音が耳をよぎって――。
いつの間にか寝ていたぼくは、祖母の「スイカ切ったよー」の声で目を覚ました。
呼びに来た祖母はニコニコして「お昼寝気持ちよかったかね?」と言った。


/7/13『風鈴の音』

7/13/2025, 9:32:54 AM