シシー

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 私は今、大きな岩の上にいます。

 荒れ狂う海に隆起した小さな島のようなものがある。その上に絶妙なバランスで乗っかっている巨大な卵型の岩があって、私はその上にいる。
 少し離れたところに絶壁の崖があり、人工的な塀や建物が乱立しているのが確認できる。塀の一部分だけに妙に豪奢な門があって、そこから崖に沿って蛇行した階段が掘り出されている。門が豪奢なだけで階段は今にも崩れそうな有り様だ。

 さて、なぜ私がそんな場所にいるのか気になることだろう。せっかちなのは私が一番よく知っている。
 結論から言うと、私にも理由がわからない。
ただ一つ確実なことがある。私はこの場所にきてよかったと心から思っている。キラキラしたものやファンタジーが大好きな私ならここで死んでも構わないと言う。絶対に言う。

 この卵型の岩は中身は空洞で、その空洞の内側には一面に彫刻が施されている。それが丁寧だとかきれいだとかの言葉では言い表せないほど緻密で繊細で、もうみたらわかる。私ならわかってくれるはずだ。
 そんな彫刻の真ん中になにかの像と祭壇があって、これもまた素晴らしい。だけどどんな形なのか認識できない。
きれいなのはわかるけれど、何がどうきれいなのかわからない。説明が下手なのはみての通りだが、こればかりは本当に説明できない。

 だから10年後、この場所にきたときにみてほしい。



「…10年後の私より、ね。頭おかしくなったのかな」

 古臭いバリバリの紙に、見覚えのある癖のある字でそんなことが書かれていた。
どうみても私ではなく、叔母の筆跡にみえるのだが。

「宛先間違ってるよ、叔母さん」

 車の鍵を持って家を出た。行き先は叔母が入院している県外の病院だ。つい先日事故にあって大きな病院に緊急搬送され、意識はまだ戻っていない。
 
 この手紙が偽物でないことを祈りたい。


       【題:10年後の私から届いた手紙】

2/15/2024, 2:01:36 PM