「君に会いたくて」
冷たい風が吹き荒ぶ夜の街を一人の男が走っている。スーツ姿に黒のビジネスリュック。まさに仕事終わりのサラリーマンの格好で、人目も気にせず走っている。運動不足の身体で、仕事終わり。お世辞にも早いとはいえないが、それでも男は走った。
「今日、会える?」
男がその連絡に気付いたのは、少し遅めの昼休憩のことだ。大切な人からの連絡とあれば、どんな内容でも気づいた瞬間に返事をするものだが、それがこんな内容だと言うまでもない。午後の業務中、残業なんてしてたまるか、と言わんばかりの男の鬼気迫る形相に、近くの席の同僚はドン引きだったし、上司はいつもこのくらい働いてくれたらなぁとため息を吐いた。
そうして何とか定時で職場を出た男は、こうして汗臭く走っているわけだ。駅まで歩いて10分のところを、全力で走って5分。精々一本早い電車に乗れるかどうかの差でしかなくても走るのだ。それは、そう。単に君に会いたくて。
1/19/2026, 1:41:04 PM