秋風が吹き始めるこの季節は、あまり好きじゃない。
春風よりは少し寒く、かといって冬の風ほど寒くないこの季節を、過ごしやすいと思う人もいるだろう。私だって、それに異論は無い。
でも、この季節の風は、何故か物悲しさを増長させる。過去に思いを馳せたくなってしまう。
少し強い秋風が、頬を撫でる。
思わず風が吹いてきた方向を振り返るが、そこには誰もいない。
去年は、そうじゃなかった。この道を友達と2人、並んで歩いた。偶に吹いてくる冷たい風に、2人して体を震え上がらせたりした。
あの頃は今より、進路とか、もっと先の未来とかに、不安や悩みを多く抱えていた気がする。でも、きっと今の私より、あの頃は充実していた。
今の移動手段は、ほとんどが車になってしまった。それは便利だけど、それは遠くまで行けるけれど、ときたまこうやって歩いてみたくなる。
立ち止まり、遠くを見る。
田んぼやアパート、一軒家。それ以外は何もない。何もないけれど、それが良かったのだと今なら言える。
ピロン♪
スマホの通知がポケットから聞こえる。
取り出すと、そこにはちょうど思い浮かべていた友人の名前があった。
『最近、急に冷え込んできたね〜。
そっちは、風邪とかひいてない?』
その文面を見て、知らず知らずのうちに私の頬は緩んでいた。
簡単な返事を打ち込んで、私はまた歩き出す。
家に帰ったら、どんな返事が来ているだろう。それに、どんなふうに返事を返そう。そんなことを考えながら。
11/15/2024, 9:46:42 AM