フラワー
目を覚ますと、花畑の中だった。
絵本のように青い空。淡い色の花々が地平の彼方まで咲き広がっている。
「先輩?」
振り返ると後輩が立っていた。吹奏楽部の後輩だ。トロンボーン。
「あーやっぱり! よかったー、知ってる人いて。てか、うちら死にましたよね?」
彼女は固まっているわたしの隣に腰を下ろした。
「あれ、覚えてないですか? 卒業式の最中に体育館の天井が崩壊して、演奏中のうちらのところに直撃したんですよ」
「そ、そんなことある?」
「あったんです」
彼女は手元の花を雑草みたいに引っこ抜きながら喋り続けた。
「ここって、天国なんですかね? お花畑だし。でも、天国にお花畑って、いつ誰が言い出したんですかね? 何教?」
「いや、知らないけど」
わたしも手持ち無沙汰だったので、とりとめのない話に適当な相槌を打ちながら、花冠を作った。後輩の頭にのせてみる。かわいい。
「似合います?」
「ミッドサマーみたい」
*
ここは病室。
規則正しい心電図の音。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな光。
目を覚さない少女の傍には夜を明かした母親の姿。
窓の外には桜。風に散り葉桜。
4/7/2025, 6:24:54 PM