とても真面目な人だった。
制服は着崩さないし、消しかすはちゃんと集めて、ごみ箱に捨てにいく。それから、落とし物を見つけたら、必ず持ち主を探していたし、掲示物が風ではがれる度に、拾って、また丁寧に画鋲を刺していた。誰が見ていなくても、そんな、素敵な人だった。学級日誌を読み返すのが好きだったことも知っている。ページをめくりながら、書いたクラスメイトのことを考えるのが楽しかったらしい。
彼は、もうすぐこの学校を卒業する。教師になるという夢に向かって、地元を発ち、進学するらしい。私は彼と話したことはないけれど、彼のことが好きだった。話したことがないどころか、彼は私のことを見たこともないし、存在も知らないだろうけれど。でも、確かに、彼を思っていたのだ。夜の暗いうちから、朝いちばんに登校してくる彼のあくびを、心待ちにしていた。教室が心霊番組の話題で持ちきりになったときは、彼の青い顔をみて、誰も、彼も、私のことが見えていなくてよかったと思った。あの一日は、ひどく落ち込んだけれど。それくらい、彼のことを考えていた。
卒業したら、もう彼とは会えなくなると思っていたけれど。この間の面談で、教師になって、この学校に戻ってこれたら、なんて言っているのを聞いた。私の体に温度はないけれど、かっと胸が熱くなるような感覚がした。私の気持ちが、きっと伝わったんだと思った。だから、運命の再会なんて言葉を信じて、あの日から毎日、彼の耳に囁いている。その言葉を忘れないように。
/また会いましょう
11/14/2024, 9:43:09 AM