導(しるべ)

Open App

艶のある長い黒髪、白くてキメの細かい肌、襟元にレースの遇われた白いブラウス、膝丈の深緑のスカート。
はたから見たら女性となった自分を見るのは、未だに慣れない。
舞台裏の楽屋にはワンピース、ドレス、燕尾服にロングコート、その他諸々。
役を演る上で必要な道具がその日限り、又は三日ほどの間だけ揃う。
そしてその間だけは、鏡の中の自分に夢を抱ける。
「祷、もうすぐ」
「うん、わかった。すぐ行くよ」
「今回の目玉だからな、頑張ってくれよ」
「もちろん。ちゃんと成功させてみせるから見といてね」
小声で軽口をたたき合いながら舞台袖へと向かう。
灯りが煌々と光る舞台上。
舞台袖から見える、聞こえる声と靡く衣装。
「いってらっしゃい」
鏡の中に映る自分に思いを、魂を乗せる。
「いってきます」

11/3/2024, 11:09:11 AM