秋風
志織とは春に出会った。今はもう並んで電車のホームの椅子が冷たい。柔らかく冷たい風が彼女の方から吹いていつものサボンの香りが鼻をくすぐる。
「…誰かが泊まりに来るなんて中学生以来。」
「あ〜…うん、うちも最後がいつか覚えてないな。」
しおりの家の方面に向かう電車がやってきた。
試験勉強のための教科書とノートでずっしり重いリュックを持ち上げて、一泊するための荷物で膨らんだトートバッグを抱えて乗り込む。
「…ふふ、ルイ、意外と荷物多い。」
「しおりの服じゃ入らないし…。」
「ふふふ、まあそうだけど。」
秋風を締め出してゆったり電車が動き出した。
少し進んでカーブを進むとがたんと揺れて志織が掴んでいたバーに自分も掴まる。
心なしか彼女を壁に追いやるような体勢になってしまった。
でも彼女は真顔よりは少しはにかんだような表情をしたから、そのまま傍に立つ。
「……、」
志織が少し俯いて艶めく黒髪が片耳から流れ落ちる。睫毛を伏せて、色付きのリップがついた唇をきゅっと結んでいる。
透けるグレーの眼鏡フレームは彼女を凛とクールに仕上げるけど、私の前でこの子は特別な感情を揺らしている。手に取るように分かるのは、私も同じだからか。
勉強会は別に泊まりじゃなくたっていい。そんなことお互い分かってる。
まだ何も言葉にしたことはないけど、移り行く季節と一緒に傍に居る時間を伸ばす、それだけで十分な気もしているんだ。
11/15/2024, 3:00:24 AM