《夫婦》
「あなたがいてくれて、本当によかった。」
僕は、隣にいてくれるそれは大切な存在にそう呟いた。
その不安に固まった表情はほろほろと崩れ、綺麗な涙を流しながら僕に微笑みかけてくれた。
彼女は、いつもは曇ることのないの明るさで僕を笑顔にさせてくれる。
時折突拍子もない行動で僕を驚かせ、僕の意識に新たな風を吹かせてくれる。
大きな事件に遭遇した際も、その身を持ってそれを止めようとしたほどに豪胆だ。
しかしそんな彼女が、心を大きく揺らすことがある。
それは大抵、誰かが関わっている。
相手がどう感じているか、どう考えているか。
それを思って不安になることが、ままあるようだ。
以前は彼女を闇に魅入られた者として疑っていた僕が言えることではない、それは自覚している。
僕も、かつては家族に疎まれていた。だから、相手の今の感情に過敏になる心情は痛いほどよく分かる。
しかしそれ故に、僕が彼女に感じていることがある。
その不安を取り除きたい。出来れば、生涯を掛けて。
あなたの心の痛みを、悲しみをすぐそばで見つけて取り除くのは、僕でありたい。
あなたの笑顔も、喜びも、涙も、怒りすらも全て見届け、受け止めたい。
あなたを疑うことで与えてしまった傷もその罪も、必ず癒やし清める努力をしますから。
今までは、あなたが僕を追いかけてくれていた。
超えられぬ、高い世界の壁さえ越えて。
どこから見ても変わることのない大いなる獣の星と月の光に導かれ、僕のもとに辿り着いてくれた。
そして、何があっても僕を信じ続けてくれていた。
手の届かぬところより見守ってくれていた時から、今までもずっと。
疑いに曇った僕の眼が晴れるのを、あなたは信じて待ち続けてくれていた。
これからは、僕があなたを追いかけよう。
あなたの心が離れそうになったら、繋ぎ止めるよう全力を尽くそう。
二人の前に壁が立ちはだかったら、その小さな手を引いて共に越えていこう。
小さな喜びも、二人で手に取れば大きな幸せに変わる。
大きな辛苦も、二人分かち合えば痛みは癒やしやすくなる。
それが僕の変わらぬ、あなたへの心の形。
そしてこれは、まだ彼女には言えないが。
魂がその身を離れ大いなる獣の元へ還っても、そこよりまた生命を与えられたあなたを僕は必ず探し出す。
その狙いを定め、確実にその心を撃ち抜いてみせます。
幾度それを繰り返そうと、全ての世界が滅ぶまで。
息を引き取る時には言えるだろうか。
あなたには申し訳ないけれどその覚悟をしてください、と。
11/22/2024, 1:38:33 PM