「もう2度と顔を見せんな」
その言葉が、わたしにとってはどれだけ嬉しかったか。
寒い冬の夜空の下、ほんの少しの荷物を持つことも許さずに、彼は恋人であるわたしを追い出した。息は吐くたびに白くなり、雪がちらつくほど冷えた日のこと。
長年住み続けたアパートを後にして、人気のない公園に身を寄せる。着古したコートを羽織り、肩を抱いた。
冷たい風を避けるように、遊具の影に身を隠す。行く当てもなければ、頼れる人もいない。お先真っ暗な状況だというのに、こんなに嬉しいのは何故か。
"もう殺しちまおうか"
それは悪魔のような恋人から、ようやく解放されたからだ。
気まぐれで恋人を殴り、罵倒し、しまいには命を奪おうとしてきた、悪魔のような男。彼の両親はまともなのに、一体どこで歪まされたのか。酷く性根の腐った男だった。
最初は優しかったのに…
いや、付き合ってもすぐに恋人に逃げられてしまうと、君で5人目なんだと言われた時点で怪しむべきだった。
だが今後悔しても、無一文になったことには変わらない。
雪が肌に触れて、溶けていく。体温も一緒に吸い取られて、わたしの身体は氷のように冷え切っていた。
お腹空いた
寒い
眠い
怖い
ねむ、い……
そこでわたしの意識はぷつりと途切れる。
次に目が覚めた時、視界に映ったのは見慣れない真っ白な天井だった。
「お、お目覚めやな」
まだ虚ろげな意識の中、特徴的な方言が鼓膜に優しく響く。聞き慣れない、少し掠れた低い声だった。
「随分と酷い怪我してはったから、ひとまず簡単な処置はしといたで。でもまあ、病院にも行ったほうがええよ」
甘い、匂い
香水ではない。これは…卵?
痛む身体を動かして、声がした方へ視線を移した。
「ええ匂いやろ?俺特製のお粥やねん」
適当なあらすじ
同居していたDV彼氏から追い出された"わたし"
路頭に迷っていたところを、1人の男に拾われた。
その男は「ハルト」と名乗った。関西弁と京都弁の混じった話し方をする、笑顔の柔らかい男だった。
「俺は優しいって周りからよく言われててな。君みたいな可哀想な子は特に放っておけんの」
彼はあの元恋人よりもとても優しく、善い人だった。
わたしの身体を誰よりも気遣って
些細な変化にもすぐに気づいて
交際がトラウマになっているわたしに、親身になって寄り添ってくれた
「何も心配せんでええの。アンタは俺が守るんやから」
4/26/2026, 11:25:12 AM