~喪失感 after story~
本気の恋
はぁ~……と深いため息をついて、形のいい尻をソファにかける
こいつが俺の彼女。
俺が煙草を吸うのを見て、もう一度ため息
疲れ果てた顔で帰ってくるこいつを見て愛おしいと思う。
これは「本気の恋」だ。
今まで付き合った人は長続きしなかった
一人目…三ヶ月
二人目…五ヵ月
三人目…二ヵ月
:
:
九人目…三年 (これが隣の奴)
一言で言えば、
女垂らしで喧嘩で警察に世話になってばかり。
そんな俺を、当時三つ上の先輩が正してくれた。
それがこいつだった。
「ごめんね、怖かったよね」
初めて喧嘩で負けそうなとき、
そう言ってきたのがあいつ。
当時はバカにしてんじゃねぇ!って思ってた
今はどうしても好きで、好きで、好きだ。
「そろそろ、同棲か?」
「いや、向こうはそんな気ないとおもーけど?」
「言ってみなきゃ分かんねぇだろ」
そう言った俺のダチ
その言葉を信じて
「どーせいしない?」
「はぇ?……えっと…急すぎない?」
そんなこと言って目線反らしてるけど、嬉しいんだろうな~って分かる。
顔がそう語ってる。
うれしい
しあわせ
だいすき って。
よかった。
じゃあ日を改めて同棲したいってちゃんと言おう。
「嬉しい!ありがとう!
…でもやっぱりあんたは不器用だよね、笑」
「ん?」
「普通、ずっと一緒に居たい、だから同棲してくれ!
でしょ?」
「俺はその「普通」なんかに捕らわれないの。」
「うっそだ~!恥ずかしいだけのクセに~」
始まった、度々始まる彼女の
「俺をいじる」のコーナー
すでに赤い顔が、図星を刺されてもっと赤くなる
今まで感じたことのない、恥ずかしさと焦りに変な汗が吹き出る。
「別に火事になっただけ、」
つい口走ってしまった
今思えば、いつもみたいに流せばよかったんだ
こんなこと言うんじゃなかった。
「は?」
にこにこ笑顔が消え失せ、
地を這うようなドスの聞いた声が聞こえ、
一瞬にして、血の気がサッと引いた
「出てけ。今すぐ!!」
突然のことに驚いてなにも言えずにいると
彼女は泣き出した
「結局私はあんたの家政婦なんだね。
洗濯して、掃除して、ご飯作って、ご機嫌とりまで?」
「ちが」
「家がヤニだらけになっても文句一つ言わずに過ごしてきたのに、ずっと許してきたのに!!」
「冗談!」
「最後には火事になったから居候させてくれ?冗談じゃない!」
「ごめん!聞いて!」
「私はあんたのなんなの!
母さん?知り合い?友達?
…もしかして、まだアネキ止まり?
あんたの尻拭いはもう嫌だ、」
そう訴えるとスンと静かになって、足を玄関へ運んだ
「ちょっと今は外に出てくる。
冗談でもその冗談はイヤだった。
同棲しようって言ってくれたの嬉しかったの。
それがないことにされるのが悲しかった。
ごめんね、怖かったよね」
一つ俺の頭を撫でてからバタリと扉は閉まった。
たぶんすぐ戻ってくるだろ
この間の友達に電話を掛ける
「もしもし?俺、やっちまったわ…」
終始説明すると友達は呆れたように怒った
「なにしてんだよ!追いかけろよ!」
とりあえず、スマホと財布を持って家を飛び出した
「お前ほんとなんにも分かってねぇな。
女の子はいつだって、誰だって
プリンセスになりたいんだよ」
今なら、あいつの怒った理由が分かる
夜が明けてきたころにあいつの家に行くともう鍵は閉まっていて、連絡先は消去されていた。
あいつの肺を俺で埋めてやりたかった。
外で煙草を吸う人を見たら俺を重ねて、
思い出してほしかった。
だから形振り構わず煙草を吸ってた。
あいつにとって俺は今、なんだろう
きっともう、終わりなんだ。
雨が降りしきる中あいつを扉の前で待っていても出てくることはなかった
扉を開けて言ってほしい。
ボロボロでグシャグシャになった俺の頭を撫でて
「よく頑張ったね、あとは私に任せて
あんたとあんたのダチの分殴ってくる
もっと人を頼りな」
へったくそなウィンクしてから
「ごめんね、怖かったよね」
って。
「あ、日の出」
『本気の恋』
9/12/2024, 11:59:24 AM