※ 何日か前のお題を元に書きましたが 熟成させたらメチャメチャ長くなってしまいました 読みにくくてごめんなさい 申し訳ありません※
『恋』
ずっとポツリポツリと
小雨が降り続いていた夜だった
「もう こんな 関係は終わりにしよう……」
彼が 車で送ってくれた同窓会からの帰り道
この信号の先を曲がれば家に着くけれど
最後の信号は赤
車は ゆっくりと停まった
(ついに……言われちゃったな……)
停まった車の中で
私は ギュッと シートベルトを握りしめた
* * * * * *
彼と最初に出会ったのは高校の入学式
入学式と言えば定番の
校門に立て掛けてある「入学式」の看板
私は写真を撮りたい人の列に
両親と一緒に並んでいた
三人で写真を撮ろうと思って
誰かにシャッターを頼もうと思ったら
後に居た人が「撮りますよ?」って
声をかけてくれた
それが彼だった
第一印象は
『柔らかなオーラの人』
優しい笑顔の人だった
校門近くにある桜の木から
散り際の桜が舞っていて
雰囲気は いかにも入学式だった
撮り終わると 今度は私が
彼のカメラのシャッターを押した
桜の花びらが良く舞っていた
真新しい学生服と桜の花
同じようなタイミングの
同じような写真が撮れているはず
カメラを返すときに 彼に言われた
「あ!そう言えば 同じクラスだよね?」
「え?うそ ゴメン 私 全然覚えてない」
昔から 私は人の名前と顔を覚えるのが
最高に苦手だった
「ほんとに?
俺 君の斜め後ろの席なんだけど」
「あ~ ごめんっ! 今!今覚えたよ!!」
同じクラスか……
緊張しすぎて 誰も顔 覚えてないや
同じ学校から来てる子は 別のクラスだし
ちょっと心細かった
彼は 私の斜め後ろの 窓側の席
入学式の一件以来
話しかけやすい存在になった
クラスに居る 唯一の「知り合い」
「なぁなぁ 英語得意?」
「え?うん まぁ 嫌いじゃないけど」
「最初にお願いしときたいんだけどさ……」
「え?」
「……ノート貸してね!」
この人は 簡単に言ってしまえば人懐っこい
誰にでも話しかけるし
凄く話しかけやすい
パーソナルスペースが 物凄く狭い人
クラスにこのタイプが1人いると
全体の空気が和らぐ
うまくクラスをまとめて
タイミング良く 派手に立ち回りたい人に
バトンタッチして スッと裏方にまわる
なんだか 気づいたら
目が離せなくなっていた
うちの学校は小さい
学年2クラスしかないから
クラス替えをしても同じになる確率は高い
彼とは3年間同じクラスだった
なぜか馬が合う
意識しすぎずに 自然体で
思いっきり くだらない事が出来る
最高の友達
そりゃ 思い出も 沢山出来る
2年の終わり
私たちは生徒会役員になった
生徒会長からの直々のご指名で
彼がまず役員になり
そこから
なぜか「英語が出来て 字が綺麗だから」
という理由で私も引っ張られた
なんの意味があるのかわからない
でも
元々 イベント事は嫌いじゃない
だから引き受けることにした
別に
彼と一緒に 出来るからって 訳でも……
ない……ことも……ない
そんなこんなで 生徒会になってからは
めちゃめちゃいろんな事を計画した
3年の体育祭は
「みんなが楽しめる体育祭にしよう!」
スポーツが苦手な人も楽しめる
ほんとにお祭りみたいなイベントに変えた
借りてきた物で着飾る
『借り物ファッションショー』や
本当に食べ終わらないとゴールできない
『パン食べ終わった競争』
でも
締めるところはしっかり押さえて
最後のクラス対抗リレーは
どの学年も先生たちも
めちゃめちゃ盛り上がってた
文化祭もそうだった
全クラス共通の出し物を
『ちぎり絵』にして競った
体育館の壁に でっかいちぎり絵を作る
各クラスに渡されたのは
真っ白い障子紙数本と絵の具
紙を染めて 切り貼りする
紙を……染める?
どのクラスも 無事に済むわけがない
次の日から 何人もの体操着や
制服の白いシャツが カラフルに染まった
そんな ちょっと現実離れした
くだらないけど みんな楽しんで
一生懸命になれるイベントを
企画していった
例えば修学旅行の
全員参加のUNO大会
お土産プレゼント交換会
テスト前の
使わないけどカンニングペーパー作り
テスト問題予想ビンゴ大会……
1個ずつあげたら
キリがない
修学旅行も部活もテストも
大変だったこともあるけど
どっちかといえば
クラスのみんなで笑えてた
そんな雰囲気を作り出していたのは
たぶん……
彼のまわりには いつも
人の笑顔があった 笑い声が聞こえた
そんな毎日の中で 何回か見かけた
彼と『付き合いたい』っていう人たち
彼を好きだという女子は何人もいた
放課後に呼び出されて
なんだか やりきれない顔をして
戻ってくる彼を 何度か見かけた
私は……自分の中にある気持ちに
気づいていたけど
何も切り出せないでいた
違う 違うと
気づかないふりをして
やり過ごした
ある日
学年でも 飛びきり可愛い
人気のある女子から呼び出されたけど
でも 彼は頷かなかったと
風のウワサで聞いた
放課後 生徒会室に行くと
彼が椅子にもたれながらマンガを読んでいた
「ねぇねぇ 聞いたよ?なんで?」
「なにが?」
「頭固いんじゃない?」
「だから なにが!」
「可愛い子ちゃん フッたって」
「あー もう うるさい!うるさい!
俺にはね そーゆーのは似合わないの!」
五月蝿そうに 手をシッシッとふる
「あんまり選り好み 激しいと
誰も捕まえられなくなるかもよ?」
「はーい 忠告 ありがと」
生徒会室には 私たちだけ
なんとなく 特別な時間に感じた
私の口が 勝手に動いた
「仕方ないなぁ……
もしも もしもこのまま10年たって
誰も相手が居なかったら
結婚してあげてもいいよ」
彼が 読んでいたマンガから
顔をあげる
「はい?……なんそれ 本気で言ってる?」
「もちろん!私を貰いたくなかったら
本気で 早く 誰か捕まえなさいよっ」
マンガをそっと閉じて
何か……なんだろう 珍しく
言葉を探しながら 選びながら
真顔で彼が言う
「なんで?………そんなこと言う?」
一瞬 しまった!と思ったけど
「と……友だち だからでしょ?
可愛そうな老後にならないために
言ってるの!老人介護!」
私はいつもの おどけた調子で返した
「はぁ~ もう降参」
ゆっくりと 彼は天をあおいだ
そして 笑いながら
「参りました お前には負けたよ」
「何が?」
「その なんか…… 図太い神経!」
「はぁ??」
そんなことを言いっていると
ガラガラと扉が開いた
「誰かいる? あぁ お疲れ様~」
他の人たちが入ってきた
その場の空気が また前の状態に戻る
(良かった……私のバカ!余計な事を……)
誰も知らない 私の胸のうち
たぶん
どこかで かけ違えた 赤い糸
知られないように 知られないように
そっと蓋をした
受験シーズンを乗り越えたら
あっという間に卒業だ
長いような3年も
人生100年から考えたら あっという間
まだまだ何も知らない子どもなのに
気づいたら18歳で『成人』になっていた
私も彼も 同じ市内の違う大学に
進学が決まった
推薦で早々と決まったので
残りの学校生活はのんびり過ごせた
学校から帰る道が同じになったりして
たまに一緒に帰ることもあったけど
特別何かドキドキすることが
あったわけでもなく……
その中で こんなウワサが流れた
『好きな人の制服の
第二ボタンを貰うと二人幸せになる』
私の母に言わせると
「そんなのは古からある言い伝え」らしい
制服の第二ボタンか……
彼は誰かにあげるんだろうか……
ぼんやりとそんなことを考えていた
卒業式の日
もう この学校に来ないのかと思うと
涙があふれた
なんだかんだ 楽しかったから
沢山の友だちや イベントがあって
本当に楽しすぎたから
そして……彼が居たから
彼の笑顔があったから
彼を探してみる
やっぱり 人気だった
男女問わず 先生にも
みんなに囲まれていた
でも 何かおかしい
あれ?と思って 良く見ると
彼の制服のボタンが全部無い
第二ボタンどころじゃない
全部のボタンがなかった
私は彼に話しかけに行った
「あれ~?もう第二ボタン売り切れ?
残念っ!」
「なんだよ!欲しいならもっと早くこいよ!
知らんけど ブチブチ持ってかれたよ!」
いつもの笑顔だ
「あぁ そうだ 大学行ってもよろしく」
「こちらこそ よろしく」
「みんなで写真撮ろうぜ!」
校門で写真を撮る
あの 入学式の時みたいな桜吹雪はない
でも もうすぐ咲きそうだ
そうだね 制服の第二ボタン
あなたのボタンが欲しかったな
でも……
これで良かったのかもしれないな
私は 泣き笑いみたいな
不思議な表情で 写真に収まった
* * * * * *
あれから7年
気がつけば 25歳を過ぎていた
四半世紀も生きてしまった
ある日
当時の生徒会長から電話が来た
「同窓会を企画しよう」
あの頃の生徒会役員が中心となって
大々的に同窓会をすることになった
高校時代の友だちとは
なんとなく繋がっていた
あの彼とも 適度な距離感で
繋がっていた
今でも同じ大学だった私の友だちと
彼の友だちと一緒に
カラオケだったり ご飯だったり
ずっとあの頃と同じような関係が続いていた
お互いに 彼氏が出来たり
彼女が出来たりもした
その度に 報告の連絡がくる
大学生3年の時
二人ともタイミング良く?悪く?
こっぴどい失恋をした事があった
明け方近くまで
行きつけのお店で 二人で飲んで
「大切にする方法がわからない!」
「大切な存在へのなり方がわからない!」
「幸せにしたかったのに!」
「幸せになりたかったのに!」
と 喚き合ったことがあった
大分飲んで いろんな話をしてるうちに
『あの約束』の話になった
「なぁ あと7年たったら 嫁に貰えるんだろ?」
「誰にも相手にされなくなったらね」
酔いが 口を軽くする
酔っぱらいどうしの 終わりのない会話
「だからもう めんどくさいんだよ!」
「あ~? なにが?
恋愛を面倒くさいで片付けんの?」
「いやいや 俺はね 頑張ってんの!」
「選り好み し過ぎなんだよ~面食いが!」
「違うよ!頑張ってるんだよ!」
彼はそう言うと
コテンッと テーブルに突っ伏した
「30分寝る……」
「はぁ??やだよ!ちょっと!!」
店長が笑いながら声をかける
「いーよ 寝かしとけ
30分たったら 叩き起こすから」
スースーと寝息をたててる顔を見ながら
何も変わってないなと
改めて思う
二人で飲んで 喋ってる時間が
本当に楽しかった
「今が 楽しければ それだけでいいや」
本音が 口からこぼれた瞬間
私は そっと 彼の頭を撫でていた
* * * * * *
同窓会の日
一次会の会場は 高校の最寄駅近くの居酒屋
みんないい大人だ
中には結婚して 子どもが居る人もいた
可愛い子どもの写真を 見せてもらった
何も変わっていないはずなのに
久しぶりに会う友だちは
最初はちょっと別人みたいで
少しだけ よそよそしさもあった
でも
「はい!これは誰でしょうかっ!」
突然 彼が立ち上がり
耳に手を当てながら 首を傾げ
眉間にシワを寄せながら 声色を変える
「ん~ みんなのね~
やる気がね~ 見えないのねっ!」
会場が ざわつく
「あ~!いた!わかる!なんだっけほら!」
「あれだよ!あれ!ほら生物の先生……」
「わかった!!八巻まき!!」
「正解っ!!」
彼が笑顔で 正解者を指差す
「大正解!生物の八巻まき先生でした!
さ 次いきますっ!」
突然始まった 懐かしい先生の
ものまねクイズ大会
微妙なクセや 身振り手振り
特徴的な言葉づかい
懐かしい先生のものまねで
同級生を笑わせた
そして ちょうど場が盛り上がった時に
生徒会長が担任の先生たちを連れて
現れた
「先生たちが来たよ~」
うわぁ~という声と
拍手がまき起こる
「なんだ?なんだ?
ずいぶん盛り上がってるなぁ」
さっきまで 散々ものまねをされていた
本人たちの登場で みんなさらに盛り上がる
気になって 彼を探すと
部屋の隅の方で 元同じクラスのメンバーと
なにやら話している
パッと目が合うと
『よっ!』と手を上げて笑う
私も同じ事をした
その直ぐあとに彼は
何人かの女子に声をかけられて
部屋の外へと連れ去られていった
(別に気になってるわけじゃないけど……)
私は届いたビールに口をつけながら
同じテーブルの子たちと
懐かしい昔ばなしをしてみた
けど……
時間がやけに
ゆっくりと流れていく
いろんなテーブルに行って
懐かしい人と懐かしい話をする
まだ学生をやっている人
しっかり働いてる人
ママの人 パパの人
いろんな「今」の顔がある
でも みんな話し始めると
あの頃の バカ騒ぎしながら
過ごした あっという間の
3年間の時の顔になる
散々喋って
一次会が終わった
二次会にほとんどの人が流れる隙に
私はそっとみんなの輪から抜け出した
(さて 帰るか!)
そっと 店を出ると
外はパラパラと小雨が降っていた
持っていた折りたたみ傘を差して
てくてくと歩き始める
「わっ!!」
「なっ!ビックリする!え?」
後ろから 驚かされる
振り向くと彼が居た
そして
私の折りたたみ傘をスッと持ってくれた
「ひとりでお帰りですか?」
「まぁね 明日も仕事なんだよね」
「そっか 連休じゃないんだね」
「平日休みですけどね」
同じスピードで てくてくと歩く
「てかさ いいの?二次会」
「あぁ俺? 最初から行く予定無いし」
「嘘だぁ」
「ホントだよ 今日車なんだ」
「えー?飲んでないの?」
「飲んでません!」
「……ってことは あれ 全部しらふ?」
「そうですが 何か問題でも?」
彼が笑う
「ねぇ いつまでついてくんのさ」
「え?あぁ だって俺 傘無いし」
「なによ じゃあ駐車場まで送るよ」
「やった!ありがと!じゃあ家まで送るね」
「それは 悪いし いいよ~
歩いて帰るよ ちょうど酔いざましに」
「はぁ?こんな時はにっこり笑って
『ありがとう!』でいいんだよ!」
「あー はいはい わかりました 『ありがとうっ!』」
「俺 ノンアルコールで我慢したんだから
喜んで付き合ってよ」
「はいはい」
「その先だから 行こ」
そのまま 近くの駐車場に向かった
駐車場に着くと 見覚えのある車
車には詳しくないけど
コンパクトSUV というらしい
助手席に乗って シートベルトをしめる
「ちょっとドライブしよ」
「どこ行くの?」
「懐かしい場所めぐり」
そう言うと 彼は車を出した
フロントガラスに ポツポツと
小さな雨粒が付いていた
行き先は 通学路を通り 学校
いつも行っていたコンビニ
いつも行っていたファーストフード店
「昔は ここ セブンだったよね?」
「え?ファミマじゃなかった?」
夜だと なんとなく雰囲気が違う
あの頃 楽しかったな
なんだかんだ いつもつるんでた
「そういえば おまえさ いつもコンビニに
無理やりひっついてきて
俺にたかってたよなぁ?」
「無理やり~?そ そんなことないよ!
25回に1回くらいは私も奢ってたし!
たぶん……」
「いや 記憶に無いわ」
「ひどい~!」
小雨が窓に粒を作る
雨の夜は 景色がキラキラして見える
しばらく学校のまわりを回ってから
私の家の方に向かう
「じゃあ……家まで送るよ」
「うん ありがと」
自分の家までの道のり
あの頃も 思ってたな
一緒に帰れる道程が
もっと もっと 長ければ良いのに
「この 先 曲がるんだっけ」
「そうだよ」
信号が赤に変わる
ゆっくりと車が停まる
この信号の先を曲がれば
家に着いてしまう
「なぁ ……」
「なに?」
やけに 静かなトーンで彼が切り出す
なんとなく 車の中の空気が
ピリッとした
「もう こんな関係は 終わりにしよう」
じっと前を向いたまま 彼が言った
「え? なに?なに?どういうこと?」
「……正直 実はもう 俺 辛いんだ……」
握りしめていたシートベルトに
さらにギュッと 力が入る
彼の視線は 前を向いたままだ
(あぁ 言われた……)
いつか言われると思っていた
ついにこの日が来てしまったんだ
彼の優しさに甘えて
なんとなくいつも 彼の近くに居たけど
やっぱり 私は 目ざわりだったんだな……
「……そっか ごめん…… 私 ここで降り……」
「 違う ダメ!
待って 最後まで話聞いてほしいんだ」
ドアを開けようとする私を 慌てて止める
信号が青に変わる
車をゆっくりとスタートさせた
彼は 私の家の前を通り越して
走り始めた
「実はさ あの約束……
正直 苦しかったんよ……」
「なに?10年後ってやつ?
……ゴメン やだなぁ
そんなに 本気で考えないでよ……」
「……そうじゃない 違うんだよ」
「え?」
車は そのまま走り
近所の 小高い丘の上にある公園についた
がらんとした駐車場の端に
車を停める
「もう『友だちごっこ』は終わりにしよう」
「……そう……ごめん……」
心がひんやりとする
そうだよ いつかこんな日が来ると
思っていたんだ
彼が ゆっくりと私の方を向いた
「……これ」
彼の手から渡されたのは
学生服のボタン
「なに?これ……」
「制服の……第二……ボタン」
「誰のっ??」
「バカ!俺のに決まってんだろ!」
「なんで?今さら?」
「……ずっと 自分で持ってた
本当は……待ってた」
私の 手のひらで ボタンがコロンと動いた
「10年たったら
……おまえ 嫁に貰えるんだろ?」
「え?……」
「まだあと3年くらいあるけど……」
「それ……どういうこと……」
「あーもう!いい加減さ……
気づけよっ 鈍感だなぁ!!」
彼はそう言って笑った
その笑顔が
ガチガチに凍った 今にも割れそうな心を
フワリと包み込む
「……俺と結婚してほしい」
「は?冗談でしょ?やめてよ……」
「冗談でこんなこと言わないよ」
「……な、バカじゃないの?
あんな子どもの約束 真に受けて……」
あぁ ダメだよ
待って 待って 待って……
急にそんなのは 反則だよ……
「俺 怖かったんだ ダメだったらって
本当に大切なもの 失いたくなくてさ ……」
全身が固まる
あぁ ダメだよ ダメだよ
ダメ ダメ ダメ ダメ
もう 何か言葉を 口から出したら
崩れてしまうよ
「ねぇ……もう……」
あぁ
もう 無理だよ……
もう ダメだよ……
ダメだよ もう……
「言っても……良いの?」
「なにを?」
もう……
「ずっと…… 」
私は うわっと泣きながら 彼に抱きついた
「ずっと 好きだった」
彼は そんな わんわん泣いている私の背中に
そっと手を回した
「遅くなって ゴメンな」
優しい 懐かしい
暖かい手が そっと私の頭を撫でた
気がつくと 雨がやんでいた
フロントガラスについた雨粒が
雲間から うっすらと見える月の
光に照らされて キラキラしている
「……雨夜の月……だね」
「ん?なにそれ?」
「辞書引いてみて」
「……あ はい」
でも 違うな
奇跡みたいな出来事はあるんだよ
ほんとに あるんだよ……
* * * * * *
ねぇ 恋をしたのは いつから?
私はね ずっと 同じ気持ちで
過ごしてきたんだよ
大好きだって あなたのそばに居たいって
ずっと 変わらずに 思ってきたんだよ
だから いま 自信持って言うね
「私はあなたが 大好きです」
7/19/2022, 5:15:22 PM