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5月29日投稿 「半袖」続き

「相合傘」

きれいに洗濯をしたジャージを紙袋に入れた。近くの天満宮で買った学業成就のお守りも一緒に入れて毎日持ち歩いている。

すっかり暑くなって毎日半袖だ。もう長袖のジャージは着ることはないだろうけど、早く返さないと。そう思って一昨日も昨日も今日も図書室に来たけど、西畑先輩はいない。明日は華道部の活動があるから、今日は会いたかったな。

活動は2週間に1回だけ。自宅で教室をひらいている草月流の先生が教えに来てくださる。中学の先輩に誘われて始めたが、面白くなって2年になっても続いている。

季節の花に触れることができるのが一番の魅力だ。今日はあじさいが入っていた。中でも真っ白なあじさいがきれいだった。写真におさめてから片付ける。毎回仕方のないことだけど、かさばるのが難点だ。電車に乗る時は肩身が狭い。

運が悪く途中から雨が降っている。カバンに花に紙袋に荷物が多いのに、あいにく折りたたみ傘しかない。傘を取り出していると「藤野さん」と呼ぶ声がする。この声は…

「西畑先輩」
「よかった。会えた。図書室にいないから待ってたんだ。この前はありがとう。これ、お礼に」

先輩の手から私の手に小さな紙包が渡される。

「本当にありがとね」
「あの、私からも。ジャージありがとうございました」
「駅まで行こうよ。今日は傘持ってるから一緒に入ろう」

この前は偶然だったけど、今日はちゃんと相合傘と言っていいだろうか。先輩が華道部の話を聞いてくれる。しばらく図書室にいなかったのは、3年生だけ短縮授業で終わるのが早かったからだった。よかった。避けられたわけじゃなかった。

「LINE交換しよう?」
駅について電車を待っていると先輩がスマホを出して来た。ピロンと音がして先輩が「よろしくね」とメッセージをくれた。私はお気に入りの羊のスタンプを返した。

電車が来ると先輩が花を網棚に乗せてくれた。途中から混んできて先輩の胸にくっつくような感じになってしまった。ドキドキがわかってしまうだろうか。電車が揺れるたびそっと背中に手をあてて倒れないようにしてくれる。

改札を出ると先輩は私について来る。
「先輩、家は反対じゃ…」
「家まで送る」
「でも…」
「ほら行くよ」

先輩の傘は大きくて、小降りになった雨のポツンポツンと傘に当たる音が、リズミカルに響く。もう少し止まないでね。

今日、憧れは恋になった。

6/19/2024, 11:44:48 AM