黒々とした大地の、あちらこちらに燐光が燻っている。
焦土が、どこまでもどこまでも広がっている。
素晴らしい威力だ。
地下から実に何年かぶりに出た地上は、記憶よりもずっと広く、ずっと拓けていた。
当たり前だ。
その地上の破壊こそが、我々の長年の悲願であったのだから。
「お気に召した?」
いつの間にか出てきていた君が隣で、ひっそりした笑顔を浮かべる。
「もちろん。異論なしだよ」
長年、聞くことすら出来なかった君の声を隣で聞ける。
そんな喜びを噛み締めながら、そのことをバレないように顔だけは平然を保ちながら、君に返答を返す。
今立っているこの土地が私たちの故郷だった頃、私と君は親友だった。
あの時、あの二十年以上も前のここは、平和で穏やかな日常を持っていた。
私は君と、粗末で暖かいいつもの服をまとって、どこまでも広がる、黄金の麦畑と長閑に草を食む家畜たちの牧地。
私たちのような子供は、レンガと木材でできた村の中を駆け回り、遊び、無邪気に笑い続けていた。
しかし、そう、二十年前だ。
二十年前、ここは破壊された。
侵略され、私たちは家屋から引っ張り出されて、土地を追われた。
丈夫な大人はみんな連れて行かれ、弱い大人はみんな、土の中に叩き落とされた。
親を失い、大人を失い、頼るものを失い、村も土地も家も何もかも失った私たちは、村を壊滅させた張本人たちによって、保護され、働かされた。
あの二十年前のあの夜。
君と見た景色は、ずっと焼き付いていた。
村が、見覚えのある景色が、略奪に来た彼らによって、憎むべき景色に変わっていく。
ささやかな幸せと、人間らしいささやかな不満と、貧しくても豊かな日常があったあの村が、一夜で、私たちにとって憎むべき景色になったあの景色を。
私と君は、一緒に見ていた。
あれから二十年。
私は、奴ら敵に連れられて来た場所で必死に働いた。
耐えた。
希望を、憎しみを忘れずに。
奴らを、そして、奴らが奪い、もう私たちのものではなくなったあの村を、荒れ果てた平地にすることを夢見ながら。
それから、仲間を集め、人を集め、資材を集め、地下に隠れ住んだ。
奴らに復讐するために。
君は施設から逃げ出した。
私は最初、君が裏切ったと思ったんだっけ。
しかし、それは違っていた。
君は逃げて武器商人になった。
君も、希望を、憎しみを覚えていた。
そして君は、奴らを滅ぼすための兵器や武器を揃えて、戻ってきた。
君と再会を果たした時、私たちを、いや、我々を繋いだのはあの景色だった。
二十年前に君と見た景色。
あの耐え難い、恐ろしい、憎しみのあの景色。
あれから二十年。準備は整った。
整ったのだ。
私たちは、我々はこれから、景色を変えるのだ。
今広がっている景色を、世界全土に広げるのだ。
私は、君と、今こうして景色を眺めている。
奪われた村がすっかり焼き尽くされて、黒い土と不気味なメラメラと燃える燐光と燻りを上げる灰のみに成り果てたこの、殺風景な景色を。
我々の望む景色を。
君と見た景色を吹き飛ばして残った、美しい残骸であるこの景色を。
「良い眺めだ」
私はほとんど意識せずに、そう呟いていた。
「いい眺め」
君も隣で頷いた。
私は忘れないだろう。この景色を。
君と見たこの景色を。
二十年前のあの景色と同様に。
黒々とした大地のあちこちに燐光が燻っている。
焦土が、どこまでもどこまでも広がっている。
3/22/2025, 5:38:21 AM