帰燕[Kien]

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作品No.221【2024/11/07 テーマ:あなたとわたし】

※半角丸括弧内はルビです。


「いやー、ほんと助かるわ。ありがとな、莉胡(りこ)」
 そう言って、ニカッと笑うスミに、わたしはドキリとする。それを顔に出さないよう努めながら、
「こんな調子で大丈夫? スミが行きたい高校、これよりだいぶ難しいと思うよ?」
と、少し厳しく言った。実際、スミが行きたいと公言している高校は、わたしが行きたいと思っている高校よりも難度はだいぶ上だった。それこそ、スミの今の実力では、到底合格など叶わないくらいには。
「マジかよー。オレ、国語マジで苦手なんだけど」
「国語と数学の点数差ひどいもんね、スミは」
 言いながら机に突っ伏すスミに、わたしはそう声をかける。彼に言わせると、漢字の読み書きも、登場人物の心情を読み解くのも、説明文の一番言いたい重要なことをさがすのも、二百字以内で意見文を書くのも、超難解な問いらしい。
「その点、莉胡はどの教科も点数いいよな。あと、教え方も上手い! マジ感謝!」
「ありがと。でも、これで満足するのは早いよ、スミ。……行きたいんでしょ?」
 一度言葉を止める。わたしの中で、スミに見えない決意を固めるために。
「季胡(きこ)と、同じ学校に」
「おうよ! 決まってんじゃん!」
 目をキラキラと輝かせて宣言するスミは、とても眩しい。直視できないくらいだ。
 いっそ、無関係だったらよかったのに。
「なら、もう少しレベル上げないとだね」
「うぇー。それマジで言ってる?」
「当然」
 スミがずっと、季胡を見てるのを知っている。スミにとってわたしはずっと、〝教えるのが上手い同い年の幼馴染み〟で〝すきな人の妹〟だ。どれだけわたしが近付こうとしても、スミには近付けなかった。
 だから、わたしは決めたのだ。
「ほら、もっかい過去問やろう。わたしも一緒にやるし」
 あなたとわたし——交わらない二人が、もうすぐ離れ離れになる。その真意を、あなたが知ることはないままに。

11/7/2024, 2:48:45 PM