「あなたに届けたい」
すぐそこで明るい音楽が鳴っている。私は、心ここにあらずみたいなふわふわした心持ちで、前の団体の発表を聴いていた。ここは舞台袖、手には早くスポットライトを浴びさせろと言わんばかりの銀色のトランペット。あと数分で私たちのステージが始まる。コンクールなどとは比べ物にならないにしろ、いくら数をこなしても本番のステージというものは緊張する。今回の本番は地元の小さなホールで行われるコンサート、いくつか賞は用意されているものの、参加する団体も多くない、発表会のようなものだ。しかし緊張するものは緊張する。共に練習を重ねてきた相棒を握る手に力がこもる。周りを見渡せば、仲間たちも皆どこか表情が硬い。と、そんな時。我らが部長が小声で、しかしメンバー全員に聞こえる芯のある声で言った。
「うちらなら大丈夫。お客さんの心、うちらの演奏で揺さぶってやろう。」
その言葉で、空気が変わった気がした。頷く仲間たちの顔に笑顔が浮かぶ。心が一つになったとはこういうことを言うのだろう。私たちなら大丈夫だと、そこにいる全員が感じた。と、ステージ上の演奏が止む。私たちの番だ。暗い舞台袖からライトに照らされる眩しいステージに出ると同時に、先程までの緊張が、まるでスポットライトに照らされるかのように明るい気持ちになっていくのを感じた。席に着き、満足そうに輝いている相棒を一撫でして、観客を見る。誰とは言わない、ここにいる全員。全ての人に、私たちの最高の演奏を、届けたい。
「私たちの演奏で、心を震わせてみせる」
1/30/2026, 7:56:01 PM