いぐあな

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300字小説

人が大好きな

 しゃらん、人気のない路地に錫杖が鳴る。
「昔、この地に人間のことが大好きな妖がいた。どんな味がする? どうやって暮らしている? 何を思う? 心の中は? もっと知りたい、もっと知りたいと夢中になるうちに、そいつは完全に人になりきって自分が妖であることを忘れてしまった。しかし、腹がへれば無意識に戻り、人を喰う。……お前みたいにな」
 男が錫杖の先で私の足下を指す。
「……ひっ!」
 虚ろな目で私を見上げる生首。いつも一緒に帰宅しているクラスメイトの友達だ。
「……ゆっきー……」
 濡れる口もとの感触に拭えば、制服の袖が真っ赤に染まる。
「……嘘……」
「残念だが本当だ」
 しゃらん、男は目を細め、私を見据えると錫杖を振り上げた。

お題「もっと知りたい」

3/12/2024, 11:46:48 AM