息を吸って冬の冷たい空気を肺に取り込み、ぬるくなった白い息を吐き出す。寒さがより身に沁みて微睡んでいた頭が少しずつ覚醒していく、この感覚が好きだ。
ポットに水を入れて沸かし、冷えきった白湯だった水を捨ててコップを洗う。正直、白湯とか水とかの区別はよくわかっていないから飲み頃温度の水のことを勝手に白湯と呼んでいる。
だから冷えきった水も沸騰したお湯も飲み頃にさえなればそれはもう私の中では白湯だ。
決まった時間に音楽が流れる仕掛け時計が朝の歌をうたう。タイトルはわからないけれどゆったりとした動揺のメロディは心地いい。憂鬱な朝のほんのひと時の癒やしだ。
「これがあなたにも聴こえたらいいのにね」
小さな写真立ての中に白黒の写真が収まっている。その隣を指人形や鈴のついたおもちゃが賑やかし、一輪挿しの花瓶にさした赤いアネモネが彩りを添える。
一度たりとも見せることも触れさせることもできなかったそれらは、それでも静かに寄り添ってくれている。
あなたがいるところまで届けたい。
あなたのためにも、それらのためにも。
「喜んでくれたらいいな」
【題:あなたに届けたい】
1/30/2024, 11:21:13 AM