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『ずっと隣で』

 痛みは、既にない。撃たれた場所が、ただぼんやりと熱いだけだ。思考はまとまらなくて、彼女との想い出が浮かんでは消えていった。あともう少しも経たないうちに、僕はただの物言わぬ骸となるだろう。戦場で散々見た、あの無惨な死体たちの一部となるのだ。身を立てるために勇んだ結果、あっさり死ぬ。戦場ではよくあることだ。
 自分だけは大丈夫だと、心のどこかで思っていた。そんなことはなかった。人間は意外に頑丈だが、死ぬ時は簡単に死ぬのだ。それを知らなかった、出征前の僕を恨んだ。こうなることを知っていたなら、彼女にあんな言葉はかけなかった。守れるかも分からない約束をするべきではなかったのだ。
 彼女は帰らない僕を待ち続けるのだろうか。どうか忘れてほしいと思った。連絡ひとつ寄越さない僕のことなど見限って、彼女を幸せにしてくれる人を見つけてほしい。たったひとつの約束すらも守れない情けない男のことなど、どうかすっぱり切り捨てて。君が幸せでさえいるのなら、僕は何も思い残すことなどないんだ。どうか世界一幸せになって。僕のことなど思い出す暇もないほど幸せに。
 独りよがりの自己中な願いは、きっと叶わない。分かっている。彼女は僕の帰りを待つだろう。分かっているんだ。青い時代の若さという根拠のない自信は、愛する人に永遠の呪縛を与えてしまった。今あの時に戻れたら、君をこっぴどく振ってしまおう。最後に見るのが泣き顔でも、その先の人生まで縛るよりはずっと良い。あるいは逃げてしまおうか。君の手を引いて、遥か遠くの国まで。君と二人ならきっと、どこでだって幸せだろう。君の隣にいられる、それだけで良かった。それだけで良かったんだ。

3/13/2023, 12:38:21 PM