カミハテ

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繊細な花



「推しとかいる?」
「うち、ジャニオタなんだよねー」
「えー!マジィ〜?」
高校入学からまもない時期。
皆、友達を作ろうと必死だ。
私も早く親友を見つけたい。
とりあえず1人は信頼できる人を作っておかないと。
安心して高校生活送れない。
「っとちゃん!まことちゃんってばぁ!」
「、、はっ、えっ?なんか呼んだ?」
しまった。考えに耽って呼ばれたのに気づかなかった。
「だからー!推しいる?」
「あー、えーっと、、、」
好きな芸能人とかアーティストとかいないんだよね。
私、飽き性だから。とは、この空気感では言えない。。。
何かしら捻り出さないと!
かと言って有名な人挙げちゃうと、「あ!その人私も好きなのー!」とかなって、「今、〇〇ってドラマ出てるよね!見てるー?」とか言われて、ついていけなくても気まずいし、、、。
んんんんんんおおおおおおー!
あ。
「い、い、犬っ犬かな!」
犬は本当に好きだし!
嘘じゃないし!
犬嫌いな人、あんましいないでしょ。
なかなか良い答えしたんじゃない?
「、、、へ、へぇ〜、そうなんだ〜」
え、え?
いかにも気遣われた笑顔だった、、、。
私、気遣われると壁感じちゃうから苦手なんだよね。。。
壁作られちゃうとあなたとは気が合わないから距離置くわって言われた気分になってしまう。
壁を作られると、壁を取っ払ってほしい、仲良くなりたい、気に入られたいって思いが大きく膨れ上がって、神経をすり減らして自分らしくない話し方をしてしまう。
でも結局本心を見せてないから仲良くなれない。
壁はずうっとそこにあるまま。
ずっと壁を感じながら話すのにも疲れちゃって、
もう仲良くならなくていいやって思っちゃって、
結局仲良くなれない。
人と関わるうえで壁を作られる瞬間は少なからずある。
その度にこの重たい思考回路を毎回毎回するのだから、人と関わりたくなくなってしまった。

こんなに弱虫な自分が嫌いだ。
すぐにネガティブに考えてしまい、すぐに追い込まれ、すぐに自分が嫌になる自分が、嫌になる。
そんなすぐに傷つく自分が嫌になる。
繊細な自分が嫌になる。

いっそのこと何も考えずにしゃべれたらどれだけ楽だろうと思う。
思ったことを思った時に言って、それで笑いを取れたら、、、
そんなに幸せなことはないだろう。
一度挑戦してみたいとずっと思い続けている。
だけど、もしすべったら?上手くいかなかったら?
上手くいかなかった時のことを考えると、
挑戦するのが億劫になる。
なぜそんなにも失敗を恐れているのだろう?
自分でも分からない。

つまるところ、傷つきたくないから、現状に不満をもっていても挑戦しない。
そんな繊細な自分も嫌になる。
生きていく限り、人と関わることは避けられない。
つまり、人と関わるときに必ず生まれるこの負の感情を、一生感じ続けなければならないのか。。。
いっそ死んでしまえば楽になれるのだろうか。。。
もうこの世界に未練はない。。。とは言い切れないが。
まだやりたいことはたくさんある。
あるにはあるけど、それを投げ打ってでも楽になりたい気持ちが強い。
けど、死ぬのは怖い。
痛いだろうし、苦しいだろうし。
それでも楽になりたい。
でも痛いのは、、、。
死ぬときの痛みへの恐れが、かろうじて私の自殺を食い止めている。

結局私は生き続けている。
死ぬ時さえ勇気を出せないのかと自分に絶望している。
絶望しながら、しぶとく生きている。
そんな自分が嫌いだ。

そういえば、久しぶりに友達親子と出かけた。
友達のお母さんは、県随一の進学校卒らしいが、
大学にはいかず、やりたいことも見つからず、遊び呆けていたらしい。
23才になってやっとやりたことを見つけ、専門学校に行って、夢を叶えたんだとか。
そんな人生もあるのか、と思った。
私も県トップの進学校に在学中だが、将来は旧帝大に進学し、大企業に勤めるという、レールの上を真っ直ぐ進むだけの人生しか見えていなかった。
思っているよりも生きるのって自由なんだな。

父に学校に行きたくない理由はなんだと聞かれた。
実は私は今不登校だ。
私は、好きな時に好きなことを好きなだけできないから嫌だ。それに人に気を遣いまくってしまうから人が多いところは疲れると答えた。
父はそうかと言って、しばらく経ってからポツリと呟いた。
「まことには〇〇高校があっているかもな」
なにそれ?と聞くと、自分の興味のあることをとことん突き詰められる学校だ、と教えてくれた。
その代わり、皆本気で突き詰めにきてるから空気感が今の学校とは全然違うけどねとも言われた。
父は常に解決策を出そうとする。
今まことは先々のことを考える余裕はない。
今の状況を打破しようとも思わない。
そんな気力はどっかいってしまった。
だから解決策を出そうとする父を見ると、もう解決しようとするのか、もう少し休ませてくれよと思ってしまった。

夜中に目が覚めてしまった。
しばらくベッドの上でゴロゴロしていたがどんどん目が冴えてくる。
もう今夜は寝れないかもしれない。
ついにまことは諦めて起き上がった。
なんだか心がざわざわする。
心を落ち着かせたい。
ベランダに出た。
夜風に当たるとなんだか落ち着く。
しばらくベランダの壁に寄りかかっていると、
ふと、父から勧められた高校のことを思い出した。
少し調べてみようか。
スマホをポケットから飛び出し、高校名を検索してみる。
ホームページを開いた。
「通信だから、できることがある。
通信じゃないと、できないことがある。」
ホームページを開くとすぐに、白黒のでかでかとしたキャッチコピーが浮かび上がってきた。
デザイン、音楽、ICT、語学、、、
学べることが多岐に渡っていた。
大学受験を考えていれば、難関大学対策の授業動画も視聴することができるらしい。
本当に好きなことを好きな時間に好きなだけできる環境が整っている。
まことは気づけば、食い入るようにホームページを読んでいた。
あれだけ解決策はやめてくれと思っていたのに、
今ではこの高校に行きたい思いが強くなっている。
今通っている高校に進学を決める時は、本気で行きたいとは思っていなかった。
ただでさえ狭い視野の中で、最もマシな高校を消去法で選んだだけだったのだ。
通信制の高校なんて考えたこともなかった。
どこかでこのまま簡単に高校を決めて良いのか、しっくりきていない気持ちはあるにはあったが、、、。
だが今調べているこの高校は、本気で行きたいと思わせてくれる。
こんな感覚は初めてだ。
なんだか嬉しい。

高校を一通り調べた後、もしこの高校に通ったとしたら、将来はどうなるのだろうと思った。
自分の将来について深く考えてみる。

やりたいこと、なりたいものは山ほどある。
宇宙の研究者になりたい、陽キャになりたい、アニメを作ってみたい、音楽を作ってみたい、モテたい、医学について学びたい、歌手になってみたい、有名になりたい、小説家になりたい、塾講師になりたい、地学の研究をしたい、やりがいのある仕事がしたい、役者になりたい、結婚したい、垢抜けたい。
しばらく考えを巡らしていると、あることに気づいた。
一見バラバラチグハグに見える夢の数々。
だが、もしかしたら分類できるのではないだろうか。

まず、探求・研究系。
宇宙、医学、地学について学びたい、研究、開発をしたい。

次に、創作系。
アニメ、歌、本を作りたい。
歌いたい。演じたい。
といった、何かしらの作品を作りたい。

そして、チヤホヤ系。
陽キャになりたい、モテたい、有名になりたい、垢抜けたい。

チヤホヤ系は職業にはできないが最初二種類のやりたいことはできそうだ。
だが、安定しづらい職業ばかりだ。
それに、ある程度社会経験を積むことが社会を生き抜く上で大切になるだろう。
だから、一度一般企業に就職して、社会経験を積みつつ、やりたいことを探すのがベストだろう。
仕事をしながらやりたいことを探すためには、しっかり休日が取れることが必要だ。
つまり、福利厚生がしっかりとしている大手の会社に就職することが重要になる。
そのためには、勉強を頑張って、頭の良い大学に行かなければならないだろう。
将来の道筋が少しだけ見えた気がした。
よし。明日から自分なりに勉強してみよう。
いきなりたくさんはできないかもしれないけど、
自分のできる限り頑張って、夢に近づけるように。

まことはベランダから部屋に戻り、ベッドに潜った。
そしてしばらくすると、深い眠りへと落ちていった。











6/26/2024, 1:48:30 PM