それは、例えるなら絶望の先に見た希望だとか、伸ばした手にわずかに触れるものだとか、突然現れた活路だとか、そんなどこにでもあるようで、どこにもない夢物語。
灰色に染まる世界に取り残された身体を持ち上げて、暗い思考を叩き落とす。ただ決められた道を歩き続ける自分がどうしようもなく惨めで、だからといって道を外れる度胸も気力もない。きっと自分は、単なる歯車としてこの世に生を受けたに違いない。
色のない桜が舞って、ノリのきいた制服を撫ぜる。ぼやけた辺りの喧噪がやけに大きく響いている。忙しなく動き回る人混みが、酷く鬱陶しい。
舌を打つ。瞬間、背中に届く衝撃。バランスを崩して倒れ込んだ身体に、小さな影が落ちる。
そこにいたのは、天使のような少女だった。柔らかな髪が、暖かな色を纏って揺れている。煌めく宝石の瞳に、墨を溢したみたいな自分の姿が反射した。
それは、例えるなら暗闇に一筋の光が差し込むような、夢物語の一幕みたいな瞬間。
たった一滴の色と共に、高校生活の幕が開けた。
11/5/2024, 12:54:11 PM