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『誰そ彼時相談所、はじめました』
秘密厳守! どなた様でもご自由に!
場所:彼岸公園内
営業時間:17:00~19:00

「これでよし!」
刷り上がったチラシを見て、男は目を細める。
「完璧な作戦だと思わないか?」
傍らにいる猫? のようなモノに声をかける。
「そうですね。……魔王様の敗戦が全てのきっかけであることを除けば」
「ぅぐッ!」

男——魔王は先日、勇者に敗れたばかりだった。
猫によく似た使い魔の機転のおかげでどうにか一命は取り留めたものの、魔王の敗戦の報は瞬く間に魔物たちの間に広まっていった。

魔王が負けた。
この事実はそれまで魔物たちを支配し、抑えつけていた者がいなくなったことを意味しており、それに伴って各地で魔物たちの狼藉が激化していった。
従来であればこのような時こそ勇者の出番! のはずなのだが、勇者たちは魔王を討伐した達成感からかしこたま酒を飲み、今は世界の万物を司る女神様のもとで永い眠りに就いているという——。
決して死んだわけではないのだが、世界が再び魔王の恐怖に支配されるその日まで目覚めることはないのだとか。

「それにしても勇者も女神もアホだよね。完っ全に我のこと倒したと思ってんだもん。我なんとか生き延びたのに。んでもって、もう我世界を支配しようって気ないし。やる気失せたわ。なのに、我が恐怖で世界を支配するまで起きてこないって……どうすんのこれ。起きるタイミングなくない? とんだお寝坊さんがいたもんだよ! おまけに我の部下たちも我が死んだと思ってやりたい放題始めるしさ。なんなん? この世界アホしかいないのw? 部下ならもうちょっと上司のこと心配しろよ。何勝手に死んだと思って他人様に迷惑掛けてるわけ? おかげさまで魔力取り戻す暇もなく元部下どもの尻拭いに奔走させられることになるとかさ、我不憫すぎない? あーもう、我超不憫だわー(怒)」

そんな不憫な魔王が始めたよろずお悩み相談所『誰そ彼時相談所』は、魔の力が強くなるという黄昏時のみ営業中。
皆様のお越しを心よりお待ちしております……。

10/2/2024, 9:49:18 AM