あの幻想のような夏から幾らか季節は巡った。
ぼくの心もずいぶん凪いでいる。
今はすべてが夢だったような心地すらしているけれど、
子供のように瞳を輝かせていたきみの姿を、ぼくは一生忘れないだろう。
砂漠で蜃気楼を追い求めるような果てしないきみの夢。
いくら手を伸ばしても届かないそれを、きみは最後まで諦めなかった。
薄暗い部屋で、あの日ぼくはきみと二人きりだった。
もう届かない言葉をぽつりぽつりと投げかけた。
きみだけが価値があった。
きみの輝きをもっと見ていたかった。
きみに訊きたいことがたくさんあるんだ。
きみは何一つ遺さなかった。
遥かな星空と緑色の輝きを見つめていたきみの虚しさは、この汚い世界でただ一つ本当だった。
10/13/2024, 3:23:42 PM