燈火

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【モノクロ】


「なんでカラー印刷指定なんですかね」
文芸部の部誌なんて文字だらけなのに。
夕方のコンビニでコピー機を眺めながらぼやく。
いつまでかかるのか。気の遠くなる作業だ。

隣では先輩がデータ印刷の設定をしている。
「文字に色つけたバカがいるんじゃないの」
部長とか、とさらっと加えて先輩は言う。
確かに部長の指示だからあり得るなと納得した。

面倒な印刷係の決め方は単純。じゃんけんだ。
部員数八人で、負け残った二人が印刷を担当。
残りの六人で冊子を綴じる作業を担当する。
どちらが楽かと言えば、どっちもどっちだが。

「印刷所に依頼したほうが楽だと思いません?」
コピー機を占領する高校生はそれなりに目を引く。
一部の客からは不躾な視線が向けられていた。
店員の温かい目も、なんとなく居心地が悪い。

先輩のコピー機の扱いは手慣れたものだ。
「まあ。ここも慣れてるし、いいんじゃない?」
六十部も必要なので紙が切れてしまった。
店員に頼んで追加してもらい、印刷を続ける。

ようやく刷り終わってひと息ついた。
紙の束をページ毎に別のファイルにまとめる。
ちょうど貰ったはずの印刷代がなぜか余っていた。
聞けば、部長より部費のほうが大事だと言う。

去年も印刷方法を変えたがバレなかったらしい。
「先輩、まさか去年もじゃんけんに負けて……?」
「うるさいなぁ」照れ笑いで恥ずかしそうな先輩。
かわいい人だと思ったのは、ここだけの話。

9/30/2025, 5:46:07 AM