作家志望の高校生

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「あ゙ー、つっかれたー……」
そう言って寂れた無人駅のベンチに座り込む彼を横目で見つめる。走ったせいかほんのりと色付いた肌が、濡れたシャツに透けていた。
「急に降ってきたしね。……あ、タオル使う?」
季節は6月も後半。ようやく梅雨が明け、身を焦がすような日差しが降り注ぐ。向日葵と蜃気楼が町を埋め尽くしていた。そんな中、夕立に降られて濡れ鼠になった僕達は、ただ雨止みを待っている。今日見た野良猫の話に、多すぎる夏休みの課題の話。そんなくだらない話をしている間に、雨はすっかり止んでいた。
「お、晴れてきた!虹出るかな?」
見た目の割に幼稚な彼は、空を見上げて辺りを見回していた。僕はそれに無関心そうな態度を取りながら、彼の目を盗み見る。眼下に広がる街の、赤い屋根の色。地面に芽吹き光を浴びる、草花の緑色。太陽に顔を向け咲き誇る向日葵の、目も冴えるような黄色。その全ての色が彼の瞳に映って、複雑に混じり合う。
「さあね。……でもまあ、お前が見たいなら付き合ってやるよ。虹探し。」
彼はきっと、この虹に気付くことはない。この虹を知っているのは、僕だけで十分だ。そんな微妙な独占欲を抱いてしまった僕は、彼の手を取って立ち上がる。どうせなら虹の根元とか見たくね?なんて彼が言うから、行き先は何も無さそうな海を選ぶ。ガラガラのダイヤから乗れそうな便を探して、古びた券売機で適当な切符を買った。そして僕達は、乾ききらない制服のままで、虹の根元を探しに列車に飛び乗った。

テーマ:虹のはじまりを探して

7/28/2025, 10:19:54 AM