春の小雨とは言えないほどの大雨の中、泣きながら運転していた。
一人息子が大学に進学するために、飛行機に乗って入学式を見届けた帰り道。
田舎すぎる我が家は、空港まで車で2時間近くかかる。
高速を降りて、土砂降りの雨の中、行きは2人で乗っていた車を帰り道は1人きり。
雨と涙とで、視界は最悪だけど、車通りの少ない道。
家に待つ人もいない。
若い子なら、こんな田舎じゃなくて都会に行きたい気持ちはわかる。
だから、私もパートを増やして塾代を稼ぎ、駅近くの塾に送り迎えもした。
単身赴任な旦那がいなくても、旦那の両親の家の近くに建てた家を息子と2人守ってきた。
私の身長を超えた頃、電球をかえてくれるようになった事。
重たい荷物を運んでくれた事。
些細な成長が嬉しかった。
都会に選んだ大学に進学したいと言われた時は
『あぁ、やっぱり』
って思ったし、反抗期ならでわの会話の少ない時にでも、話てくれた事が嬉しかった。
パート増やしてお弁当作って、洗濯掃除。
息子と2人。腹の立つこともたくさんあった。
これからは腹の立つ事もないんだなぁと思うと寂しくて泣けてしまう。
頑張って勝ち取った大学に入学できて良かったねと思って泣ける。
私が飛行機に乗る前に、「ありがとう」なんて言われて泣かないはずはない。
もう、嗚咽混じりで泣き出してしまって車を路肩に止める。
後続車も対向車もない。信号もない。
田んぼの稲が雨に濡れて、あたりに街灯もないから暗くて。1人なんだって実感した。
家に帰る前に久しぶりにお酒でも買って帰ろうかなと前を向くと、犬がいる。
犬である事はわかる。犬種とかなんとかはわからない。
ただ、ずぶ濡れで私の車のヘッドライトに照らされた犬がいる。
もう夜になりそうな時間。
ガリガリに痩せたずぶ濡れの犬。
降りたら私もすぐにずぶ濡れになるだろう。
犬は私の車の前から動くまいと、ジッとコチラを見ている。野犬だろうか。
食べ物は生憎持っていない。
迷子だろう。
そう思って、犬を車に乗せて一晩だけでも寂しさを分かち合う事ができるかもしれないと、運転席のドアを開け、降りようとしたら、犬もこちらに寄ってきた。
噛まれたりしないだろうか?
犬は私の目の前にくるとお座りをした。
行儀のいい犬だなと思って、行きには息子が乗っていた後部座席のドアを開けると、お邪魔しますと言ったそぶりで車に乗り込む犬。
シートには上がらず、足元で丸くなったのを確認して、車を走り出させる。
犬のおかげで泣かずに運転ができる。
お酒とつまみ。犬のご飯を買って家に帰る。
ただいまと言わんばかりに玄関へと歩いて入る犬。
自分がぬれているからか、部屋には入ろうとしない。
仕方ないから抱えて入る。
やっぱり犬臭いから、お風呂に入れる。ついでに私もお風呂に入る。
「朝になったら、病院と警察に連れてってあげるよ」
と声に出す。
犬はただジッとこちらを見るだけ。
何も言わない。犬だし、そりゃそうだけど。
でも、なんとなく、この犬はこれから私と一緒に暮らすんじゃないかと思った。
息子が巣立つ日を待っていたかのように現れた犬。
あれから5年。
最初からわかってた。
息子はやっぱり都会で就職した。
単身赴任の夫ももうすぐこちらに帰ってくるらしい。
旦那の両親も健在。
私も犬がいるから寂しくない。
②
ここいらでは素行の良くない学校で有名。
偏差値なんて知らないし、調べた事もない高校の子。
私は小学校から続く女子高生だし。
毎日、似たり寄ったりな時間に乗る電車で良く見かける子。
素行が良くない学校らしいけど、普通の高校生。
凄くハンサムってわけじゃないと思う。
いつも1人で音楽聴いてる?イヤホンしてる子。
他にも高校生はたくさんいるけど、なんとなく見つける男の子。
私は友達といたりするけど、いつも1人で電車に乗る子。
朝に見かけるけど、お互い?知らんぷりする。
今日もいた。
今日はいなかった。
そんな感じで、恋愛漫画的な要素はない。
その子が何年生かも知らないし、声すら知らない。席が空いても知らんぷりしてドアの側に寄りかかってる子。
私が勝手に、『あ、携帯変えた』とか『髪切ったんだ』って観察?してるだけ。
意識してるわけじゃなくて、目に入るだけ。
夏休みは会う事ないだろうと思っていたら、その子がいた。
初めて私服の姿を見た。白いTシャツに黒のパンツ。
どこにでもいる普通の恰好。
いつもと同じようにドアに寄りかかってるけど、
いつものイヤホンはしてない。
スマホも持ってない。
手には繋がれた女の子の手。
恋人繋ぎって奴ですか。
彼女がいるなんて、最初からわかってだけどねって。
自分に言い訳する。
8/7/2023, 11:06:03 AM