「言葉はいらない、ただ……ただ、儂はこの塔を完成たいんじゃ!」
儂の叫び声に周りにいた仲間の作業員どもは、ただぽかんっとしていた。
まるで儂の言葉の意味が理解できなかったように。
いや実際のところ、理解できなかったのだろう。
つい先ほど、神が地に降り立ち人間から言葉を取り上げていったから。
天罰なのだろう。
王族が不興をかったのか。
民から信心が失われていたのか。
それとも、天にも届くほどの塔を作ろうとしたからか。
何が悪かったのか確かめようもないが、いずれにしろ人間は神を怒らせてしまった。
それでも儂はこの塔を完成させたかった。
雲を突き抜け、天高くそびえる塔をこの地に。
幸いなことにいま傍にいるのは長い年月、苦楽を共に過ごしてきた仲間たちだ。
言葉が通じなかったとしても、儂の心意気は通じる。そう信じていた。
しかし彼らは儂の言葉に応えるわけでもなく、鳥のような牛のような馬のような獅子のような、様々な生き物の鳴き声のような言葉を発しながら、この場から、そしてこの地から去っていった。
儂はただ、取り残された未完の塔が朽ちていく姿を見守る事しかできなかった。
何日も、何ヵ月も、何年も。
やがて塔に途中まで積み上げられていた柱や壁も風化しはじめ、塔は崩れ大地へと帰りこの世から姿を消した。
後に『バベルの塔』と呼ばれる塔であった丘のふもとで、儂はいまだに天を衝く塔を夢想して過ごしている。
// 言葉はいらない、ただ・・・
8/30/2023, 9:45:53 AM