ここではないどこかへ行こうと君を誘うけれど、君は頑なに首を横に振り、僕の手を取らない。
こんなところにいたって何も変わらないよと、説得を試みるけれど、やはり君は首を縦に振らなかった。
どうして君はここにいたいの? と聞いてみたら、君は大きな目をきょとんとさせる。
そして──。
「どうして君は、ここではないどこかへ行きたいの?」
と、僕に問うてきた。僕がその質問に押し黙ったままでいると、「君が何を変えたいのか、私にはわからないよ。わからないうちは、ここではないどこかへなんて行けない」とまた首を横に振る。
「ここではないどこかへ行ったって、結局はまたここではないどこかへ行きたくなってしまうわ」
それでは意味がないのよ、と言う君の言葉が僕の胸を貫いた。
ああ、そうか。
僕はただ、僕ではない誰かになりたかったんだ。
ここではないどこかになら、僕ではない誰かがいると思った。
どこに居たって僕は僕なのに──。
【ここではないどこか】
6/28/2023, 4:24:50 AM