鬼と女。300字小説。
夫婦岩
善い女だったぞ。器量はよくはなかったが律儀で優しい女でな。狼に襲われていたところをちょっと助けてやっただけで醜い鬼の儂のところにやってきて「恩返し」ってな。
アイツも村では親無し子で居場所もなかったのだろう。鬼一人女一人、周りは反対したが一緒になった。
だが、今は後悔しとるな。善い女すぎた。儂はアイツがいない前、どうやって一人で暮らしていたんだ? 覚えておらんし、もう出来ん。どうして人は……。
「これがその伝説の夫婦岩です」
山岳ガイドがお花畑に佇む二つの岩を指す。
「小さいのが妻の墓石、隣の大きいのが嘆いた鬼が変じた岩と言われています」
善過ぎる女だからこそ反対したのだ。ガイドが岩に向かいポツンと呟いた。
お題「後悔」
5/16/2023, 5:44:55 AM