君と見上げた、あの夜の月
夜の公園は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
ベンチに座ると、空には大きな満月が浮かんでいた。
その光は、街灯よりも優しく、けれど確かに世界を照らしていた。
「月、綺麗だね」
隣に座った彼女が、ぽつりと呟いた。
その声は、風に乗って耳に届いたけれど、どこか遠く感じた。
僕たちは、もうすぐ離れ離れになる。
彼女は来月、遠い街へ引っ越す。
理由は夢のため。反対する理由なんて、どこにもない。
でも、心の中にはぽっかりと穴が空いていた。
「ねえ、月ってさ、どこから見ても同じ形なんだって」
彼女は笑った。
「だから、離れても、同じ月を見てるって思えば、少しだけ寂しくなくなるかも」
僕はうなずいた。
言葉にできない想いが、胸の奥で渦を巻いていた。
「君がいなくなるのは、やっぱり寂しいよ」
ようやく絞り出した言葉に、彼女は少しだけ目を伏せた。
「私も、寂しい。でもね、月を見上げるたびに、君のこと思い出すと思う」
その言葉は、僕の空白を少しだけ埋めてくれた。
二人で見上げた月は、まるで何も知らないふりをして、ただ静かに輝いていた。
でも、僕たちは知っていた。
この夜、この月、この沈黙が、きっと未来のどこかで繋がっていることを。
別れは終わりじゃない。
それは、同じ月を見上げる約束の始まりだった。
お題♯君と見上げる月
9/14/2025, 1:27:47 PM