Morita

Open App

その白紙の上にはひとつだけ色があった。

鉛色。

下書きの鉛筆の色。描きかけの漫画の、主人公たちの顔も吹き出しの中身も白紙のまま、ただ丸と四角で構成された動きのようなものが見えるだけの。何を描こうとしたのか、こんなに荒い筆致でなにを焦っていたのか、誰に何を伝えようとしていたのか、今となっては思い出せない。ただその紙面に向かって殴り書きをしていた時の鉛筆の感触、中指にできたペンダコ、部屋の明かりを目ざとく見つけた父親が早く寝ろとドアを開けやしないかとハラハラしていたこと。

もう30年も前のことだ。

今になっても、中指のペンダコはずっと消えることはなかった。小指の外側はいつも鉛色に汚れていた。ずっと描き続けていた。なにが正しいかは分からなかった。ただ描くのが楽しかった。

それで良かった。


【お題:無色の世界】

4/18/2026, 2:19:49 PM