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テーマ:「届かない」

自分の書いた手紙に込めた思いは彼に届かないことはわかっている。

きっと、彼は私の手紙を読もしないだろう。
でも、それでいいんだ。
彼は、手紙を読まないけれど捨てもしない。
このSNSが発達した時代に、態々紙という媒体を選んだのはそれが理由だ。
彼は、きっと手紙を食べてくれる。

自分の痛々しいほどに張り詰めた心の内を全て曝け出すかのように書いた長々しい文章は、1行も目に触れることなく、彼の胃袋に収まるのだ……

数日後、彼からの手紙が届いた。

手紙を開くと、「この間のお手紙、御用事なあに?」と一言。慌てん坊でそそっかしい彼らしい少し斜めった、お世辞にも綺麗とは言えない字。

その文字を指でなぞり、少し微笑みが溢れる。
私は、今度はスマホで彼にメッセージを送る。

「なんでもないよ。ただ、この間映画を見ていたら久々に手紙を書いてみたくなってさ。ねぇ、今度久々に会ってどこかで遊ばない?」


すぐに、彼からのメッセージが返って来た。

「そっか!じゃあまた美味しいものでも食べに行こうよ!あと、この間の手紙も実は食べちゃったんだけど、美味しかったよ!」

私の思ったとおり。黒ヤギさんは相変わらずなんだから……!

5/8/2025, 11:11:21 PM