藍星

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お大事になさってください。
 
どうもありがとうございました。


病院というのは、行くだけで疲れてしまう。
体を良くしてもらいにいく場所のはずなのに、病院を出る時は
来た時よりも体が重い気がする。

今日も患者は多く、長く待つことになった。


病院を出て、
薬をもらうために薬局へ向かった。

薬局で薬を待っている間に、彼に迎えを頼もうとスマホを手に取った。

しかし、ホーム画面が映らない。
やっと映ったかと思っても、タップに反応しない。そうこうしているうちに、電池切れになってしまった。


おかしいな。今朝は十分にバッテリーはあったし、大して使ってもいないのに。それに、ずいぶん感度が悪くなってた。
・・とりあえず、連絡どうしようかな・・

病院の混み具合はその日によって違うから、いつ診察が終わるのかわからない。
帰りは迎えに行くから、病院が終わったら、連絡を––と、言われていた。


薬を受け取ってから、
私は再び病院に戻った。
公衆電話のある場所として、病院が思いついたからだ。設置されてない病院もあると聞くが、幸い設置してあった。

彼に連絡をして、迎えをお願いした。すると、知人から急遽頼まれごとをされたとのこと。もうしばらくその頼まれごとを片付けるのに時間がかかるから待っててほしいと言われた。

私はふと思いついたことがあり、彼にその旨を伝えて、電話を切った。


病院から出て、思いついた場所へ歩き出す。
確かこの辺にあったような・・あ、あった。

訪れたのは携帯ショップ。
時間があるため、スマホを見てもらうことにした。やはりいざという時に連絡できないと困るし、彼に余計な心配もかけてしまう。

見てもらうと修理は可能だか、長く使っていたため、入れ替えを勧められた。少し迷ったが、入れ替えることにした。

運良く店舗に新しい端末の在庫があり、入れ替えをすぐに始めてもらうことができた。
その作業が終わるまで、私は店の中で待っていることにした。



そういえば前にここに来た時も、病院から来たんだったなぁ。

前にここに来た時––––
もう何年も前のことだ。


私は当時、とある団体に所属して活動をしていた。私個人としては、それなりの高い志を持って活動していたつもりだった。

だが、その団体はあまり良く思われてなかったようだった。私個人としてよりも、その団体に所属する団員として見られてしまい、あまりいい印象を抱かれてなかったと感じた。

しかし、私個人の人柄や才能を評価して、一人の人間として親しくしてくれた人も少なからずいた。


火のないところに煙は立たない。良く思われてなかったのには、たとえ誤解であったとしてもそれなりの出来事があったから。

その出来事に私自身は関わっていなかったとしても、団員だった私には関係あることになってしまう。


私自身は、その出来事の本質のところまでは知ることがなかった。だけどよほどのことだったようで、警察官と思われる人に見張られていたり、地域の公務員のような人に事情を聞かれたことがたまにあった。

そんな日々が続いた結果、団員が徐々に減り、私が請け負わねばならない案件が次第に増えていった。



そんな私を、数少ない残った団員仲間の男性がよく手助けしてくれた。
おかげで、何とかほぼ全ての案件を終えることができた。


その後、私はそれまでの疲れが出たのか、高熱を出してしまった。まるで私の熱がうつったように、その時持っていたスマホも不調になった。

私が休んでいる間、仲間の男性は私に何度か連絡をくれたようだった。しかし応える気力はなかった上に、充電してもバッテリーが溜まらない状態になっていたため、体調とスマホが直ってから連絡しようと思っていた。


しかし私が休んでいる間に、人命に関わる重大な事故が発生したらしいと聞いた。
私は団員だが、その場にいなかったおかげでその事故の火の粉はさほど浴びずに済んだ。


結果、その事故は
裁判で審議するような事態になったらしい。



高熱の症状を病院で診てもらい、その足でスマホを見てもらいに店に行った。結果、修理よりも入れ替えの方がいいということになった。その時は取り寄せてもらうことになった。

その間に、私は団体での活動に限界を感じ、団体を抜けることにした。いろいろあって、仲間の男性やそれまでお世話になった人達にも、ちゃんと会わずに別れることになってしまった。


後々になって聞いたのだか、仲間の男性は私を優秀な団員としても、また一人の想いを寄せる女性としても見ていたらしい。
その男性の中では、私と二人で団体を立て直そうとしていたとか・・・

正直、私はその人を頼りになるけれど、そういう対象としては見てなかったし、立て直すほどの可能性を、その団体にはすでに感じてなかった。

私が熱で休んでいる間に連絡してきたのは、その気持ちを伝えるためだったのかもしれないと、風の噂程度に聞いた。
             ––––––––


携帯ショップで待っている間、
そんなかつての出来事を思い出して、ふと考えた。

もし、あの時スマホが壊れずに連絡できる状況だったとしたら・・
もし、その時想いを伝えられて、一緒にやっていこうと熱を込めて言われたら・・

私はどうしただろう・・?
もし一緒にやると、あの男性と一緒に行くと決めてたら、今はどんな気持ちになっていただろうか?

私は、幸せになっていたのかな・・?



突然、優しく肩に手が乗せられた。
その手の主を見て、私はほっと安心した。

悪い、待たせたな。
何かいつも以上に疲れた顔してるな。
具合でも悪いのか?

私は首を横に振った。
あなたが来てくれたから、もう大丈夫。
あぁでも、いつもよりたくさん歩いて疲れちゃったかな。


そのすぐ後に、新しいスマホを手渡された。
そして、今まで使っていたスマホはどうするか?と聞かれた。

私は隣の彼の顔を見た。

思い入れがあるなら、持っていてもいいんじゃないか?

いつもの彼の優しい気遣いの言葉を聞いて、私はさっきまで考えていたことの答えは、とっくに出ていると、再認識した。

私は今まで持っていたスマホを手放す旨を伝え、引き取ってもらった。


帰る道中に、どうしてあっさり手放したのかと彼に聞かれた。

私は新しくなったスマホをぼんやり眺めた。
あのスマホになった時のことを思い出してて・・あの時は、私にとって大きな岐路だったなぁって思ってたの。
だからもう一度、私が望んでいる方の道を選んだんだっていう、証として手放したの。


岐路って?何の岐路だったんだ?

少しの間考えて、私は言った。
私が、私の幸せを見つけるための岐路、かな・・・あの時、スマホが壊れたのは、
もしかしたら正しい道を選ぶための導きだったのかもしれないなぁって、思ったの。


"全ての道はローマに通ず" って言葉、
知ってるか?

突然の彼の少し得意げな言葉に、私は少し戸惑いながらも頷いた。

全て道がローマにつながっているなら、どの道を選ぼうが、ローマを目指す気持ちさえあれば、誰でもたどりつける。
よく知らないが、たとえ前のスマホが壊れなくても、君ならちゃんと幸せへ向かう気持ちで、君の幸せを見つけられると思う。
つまりさ、岐路っていうのは目の前にある道を選ぶことじゃなくて、
どの気持ちを選ぶかってことだと思うんだ。


私は彼の言葉に、
より心があたたかくなった。

そっか。じゃあ、前のスマホは私の気持ちをくんで、壊れてくれたんだね。


私は確信した。
そして、こっそり心の中で彼に向かって
断言した。

  あなたと一緒にいる今のほうが
           絶対に幸せだと

6/9/2024, 5:23:07 AM