お題『真夏の記憶』
(一次創作)
それは、真夏の真夜中のこと。
昼間が焼けるように暑かった影響で夜だというのに寝苦しく、俺は入眠を諦めてコンビニへと足を向けた。
足元は、カラコロと鳴る下駄。汗をかいてしまうほど暑いのに、草むらでは虫が鳴いている。見上げれば空は雲で覆われていて、なるほど昼間の熱が逃げない訳だと納得する。
目的地に到着した。自動ドアの向こうはキンキンに冷えており、火照った肌に心地よい。何となくやってきたコンビニだが、体がほどよく冷えたらビールと枝豆とアイスを買って帰るという目的を作る。
それまで立ち読みをして過ごすことにした。ゴシップだらけの週刊誌を捲る。
しばらくして、視線を感じた気がして目を上げた。はめ殺しのガラス窓の向こうに目を向けたが誰もいない。
気のせいかと思い、雑誌に目を落としたが、今度は何か聞こえてきた。俺は声もなく唇で『まさか』の形を結ぶ。
雑誌を棚に戻して外に出た。そしてぬるい空気の中で見たのは一匹の猫。
実家で飼っている猫によく似た姿形、雰囲気。もしかして、と、そんなばかな、という思いがした。だってそうだろう。実家から俺のアパートまでたっぷり3時間かかるのだ。
その猫は俺を一瞥して、なぁん、と一声甘えたように泣くと茂みに飛び込んでそのまま姿を消した。
翌日、母から電話があって、俺が小学5年生のときに拾い、そのまま飼っていた猫のナナが夜中に亡くなったことを知った。
8/12/2025, 12:28:11 PM