無月

Open App

【鐘の音】

陽の光が部屋に差し込むと同時に、鐘の音が街中に響く。凛としたその音は、身体中に染み渡るような気がした。
「おはよう」
声のした方を向く。君の姿を見かけて、思わず頬がゆるんだ。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
控えめに、君が頭を振る。
「残念だけど、あんまり。やっぱりまだ駄目みたい」
「そっか......」
君が、そっとベッドに腰かける。触れた手は冷たかった。
思わず君を抱きしめる。体温の低い身体。あの時の雨が、染み付いたみたいだ。
「大丈夫。ここなら絶対に大丈夫だからね」
「うん、ありがとう。君がいてくれてよかった」
「うん......私も。私も、君がいてくれてよかったよ」
大丈夫。絶対に君を守ってみせる。
鐘の音が聞こえた。耳に柔らかく入る音。

これからの私達を、祝福しているようだった。

8/5/2023, 2:12:51 PM